2020 Fiscal Year Annual Research Report
DNA反応拡散系による階層的なパターンの形成と制御および形態形成への発展
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19J20990
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
安部 桂太 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | DNAナノエンジニアリング / 分子ロボティクス / DNAコンピューティング / パターン形成 / ハイドロゲル / 分子サイバネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,新型コロナウイルス蔓延の影響もあり,実験の遂行に支障が出るとともに出張を伴う学会参加等が困難な状況であった.そこで,反応拡散シミュレーションモデルの構築と実験設備の拡充・実験方法の改善に特に注力した. 反応拡散シミュレーションについては,前年度設計したハイブリダイゼーションによるDNAの重合反応をどのように表現するかが一つの課題であった.この問題を解決するため,DNA重合体を3種類に分類し,さらに考慮する重合体を限定した上で立式した.この分類により重合体同士の相互作用の見通しが良くなり,コンピュータプログラムによって反応拡散方程式の立式を自動化にも成功した.また,考慮する重合体の限定によってシミュレーションが現実的になり,加えて使用するコンピュータなどの環境を改善することでシミュレーション自体も高速化させた. 実験に関しては,新たに導入された電動ステージを蛍光観察のために最適化し,また専用の装置を導入して実験の混雑を回避することで,パターン形成観察実験の効率化を図った.また,実験用のハイドロゲルの作製方法,観察方法についても見直し,実験の再現性・生産性の向上も目指した.結果として,現在ではより再現性の高い実験が可能となり,加えて前年度比で最大1.6倍の生産性の向上が見込まれている. また,出張を伴う学会への参加は実現しなかったものの,オンライン開催の研究会へは積極的に参加し,国内外の研究者との意見交換を行った. よって,本年度は実験計画の遂行に滞りがあったものの,構築したシミュレーションモデルと実験方法の改善によってより有益な情報を効率的に進めることで,DNAを用いたパターン形成のカスケード化の研究成果をまとめるに至った.その成果は現在学術論文として投稿中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験の遂行等で滞りがあったものの,本年度についての当初の計画した目標は達成されているためである. 前述の通り,新型コロナウイルス蔓延の影響もあって,実験に関しては滞りがあったものの,実験方法・シミュレーションモデル・環境の改善によって研究活動を効率化したことで,期待した成果を上げることができた.今年度に予定していた多段階的な反応による階層的なパターン形成の実現・複数種のDNAの濃度分布の時間発展の可視化・反応拡散シミュレーションによる評価・学術論文の投稿はすべて達成されたことに加え,今後の予定である形態形成への発展についての検討へと進んでいる. 多段階的な反応による階層的なパターン形成の実現は前年度設計し,実験を進めてきたDNA重合反応を利用した反応拡散系によって実現し,また,本年度行った実験によってより定量的にパターン形成システムの妥当性について評価することが可能になった.複数種のDNAの濃度分布の時間発展の可視化については前年度から導入した新たな観察設備・観察手法によってすでに実現されていた.反応拡散シミュレーションによる評価は,前年度では困難だった重合反応を含む反応拡散系について,本年度は新たなモデルを考案し,拡散係数・速度定数等の検討を通して実験結果を良く再現するシミュレーションを実現した.一連の成果は現在学術論文として雑誌Soft Matterへ投稿中である. また,形態形成への発展に関して,物性変化・機能化に適していて,これまでのパターン形成システムとも互換性を持つ材料や組み合わせの手法について検討しており,当初の想定より有効なアプローチを構想中である. よって,おおむね順調に進行していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後はDNAの局在パターンを応用した局所的なゲル化・溶解によって形態形成するシステムを構築するを目標とする.そのためにパターン形成によって得られるDNA濃度勾配とハイドロゲルのダイナミクスの変化やその他の機能化についてより互換性が高く実現が見込まれる手法やシステムの設計についての検討を予定している. まず,DNAの結合を仲介する反応,対象の組み換えによって元の結合を解離させる反応などの新たなDNA反応系を設計する.また,DNAハイドロゲルを中心に,ポリアクリルアミドゲル以外のハイドロゲルとの組み合わせも検討中である.特に骨格にDNAを用いたDNAハイドロゲルは材料の点でこれまで開発したパターン形成システムとの互換性を見込んでいる. そして,よって反応拡散シミュレーションとこれまでの文献を基に必要なDNAの量を見積もり,必要に応じて不足分を補う方法を検討する.具体的には触媒のようにDNAを使用する,酵素反応によってDNAを増幅する,配列特異的に外部からDNAを補給するなどの方法を構想中である. これらの構想を基に,今後はポリアクリルアミドゲル,DNAゲルを中心としたハイドロゲルを用いた実験と反応拡散シミュレーションを中心として,これまでに実現したDNA反応拡散系によるパターン形成システムをハイドロゲルの物性変化・機能化に関連づける手法を開発する.そのため,新たなハイドロゲルや酵素などの取り扱い手法を習得するとともに,それぞれに適した実験系を作製し,パターン形成過程の観察実験を実施する.シミュレーションでは新たな系に適したモデルを構築し,これまでの実験・シミュレーションと比較しながら新たなパターン形成実験を評価する.加えて,物性変化・機能化を実現し,定量的に評価する方法も検討し,当初の最終目標である人工形態形成システムの実現を目指す.
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Research Products
(5 results)