2019 Fiscal Year Annual Research Report
抗HIV薬を指向したアガロフラン類の統一的合成研究
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19J21057
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永井 利也 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 網羅的全合成 / アガロフラン |
Outline of Annual Research Achievements |
ジヒドロ-β-アガロフラン類は、主にニシキギ科の植物が有するセスキテルペン類であり、共通して特異に縮環した3環性のジヒドロ-β-アガロフラン骨格を有する。本天然物群は、酸化度や官能基の違いに基づき、広範な生物活性を示す。特に、含ピリジンマクロ環を有するアガロフラン類は、高い抗HIV活性を有する一方で、その構造の複雑さゆえ全合成は未だ達成されていない。そこで私は、まずハイポニンBを全合成の標的とし、合成研究に着手した。 2019年度は、BC環を有する複雑な合成中間体の大量合成法の確立、及び鍵反応である閉環メタセシスによるA環構築の収率向上を実現した。高酸化度アガロフラン類のように官能基が密集した化合物の合成では、単純な変換でさえも望まない副反応が頻発する。そのため、目的化合物の量的供給が可能な合成経路の確立は、極めて困難な課題である。私はまず、先行研究者が開発した合成経路の各反応における問題点を解決し、BC環を有する複雑な合成中間体の大量合成法を確立した。さらに、鍵反応である閉環メタセシスの収率向上は、基質の反応性が低いため困難を極めた。膨大な検討の結果、化学量論量必要となっていたメタセシス触媒を、触媒量(10 mol%)まで減らし、かつ極めて高い収率で目的物を得ることに成功した。以上により、アガロフラン骨格を有する鍵中間体の大量合成法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、ハイポニンBの全合成に向けた、アガロフラン骨格を有する合成中間体の大量合成法の確立を目標とした。これを達成するには、1) BC環を有する複雑な合成中間体の大量合成法の確立、2) 鍵反応である閉環メタセシスによるA環構築の収率向上が不可欠である。私はまず、先行研究者が開発した合成経路上の各反応における収率や再現性を向上した。特に、Dess-Martin酸化と続く大平-ベストマン試薬を用いた増炭反応においては、2工程収率が安定せず、再現性に問題があった。そこで私は、Dess-Martin酸化の反応温度と試薬の当量を精密に制御することで、安定した収率で目的物を得る条件を見出した。以上のように、各反応の問題点を解決し、BC環を有する複雑な合成中間体の大量合成法を確立した。続いて、鍵反応である閉環メタセシスによるA環構築の条件検討を行った。本反応の収率向上は、基質の反応性が低いために困難を極めた。膨大な検討の結果、化学量論量必要となっていたメタセシス触媒を、触媒量(10 mol%)まで減らし、かつ極めて高い収率で目的物を得ることに成功した。以上により、アガロフラン骨格を有する鍵中間体の大量合成法を確立した。本成果は、当初の目標を達成したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度合成法を確立した、ジヒドロ-β-アガロフラン骨格を有する合成中間体から、ハイポニンBの全合成を達成する。また、含ピリジンマクロ環を有する高酸化度アガロフラン類の網羅的な全合成を指向し、位置選択的なアシル化が可能な反応条件を確立する。まず、昨年度確立した合成経路に従い、ジヒドロ-β-アガロフラン骨格を有する合成中間体を大量に合成する。次に、Rubottom酸化によりC9位に酸素官能基を導入した後、続く還元により得られたジオールをアセトニドとして保護する。さらにTBS基の除去とラクトンの還元的開環により、トリオールとする。続いてトリオールをTBSエーテルとして保護した後、四酸化オスミウムを用いた立体選択的なジヒドロキシ化により、C3,4位に酸素官能基を導入し、ハイポニンBの全合成に必要な全ての酸化度を有する化合物を導く。この化合物から、二級TBS基存在下、一級TBS基及び一級TBDPS基を化学選択的に除去し、含ピリジンマクロ環を有する高酸化度アガロフラン類の網羅的全合成に向けた、共通中間体に誘導する。続いて、別途合成した含ピリジンマクロ環フラグメントであるエボニン酸を用いて、マクロ環化を検討する。含ピリジンマクロ環フラグメントの連結後、一級ヒドロキシ基のフラノイル化、続くTBS基、MOM基、アセトニド基の除去、アセチル化を経て、ハイポニンBの全合成を達成する。さらに共通中間体に対し、置換基の異なる含ピリジンマクロ環フラグメントの連結を行う。また、その後のC1,2,6,8,9,13位の6つの酸素官能基が区別可能な脱保護及びアシル化の条件を種々検討することで、含ピリジンマクロ環を有する高酸化度アガロフラン類の網羅的な全合成を行う。
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