2020 Fiscal Year Annual Research Report
デイヴィッド・ヒュームの方法論及び因果論の虚構主義による統一的再構成
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19J21115
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
飯塚 舜 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2023-03-31
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Keywords | ヒューム / 認識論 / 信頼性主義 / 虚構主義 / 因果 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の研究ではヒュームの因果論を認識論の観点から検討し、彼の提示する信念形成プロセスの心理学的説明が、懐疑的結論を導く論証の一部を成していると論じた。その中で示唆されたことの一つは、ヒュームの論述の中に、信頼性主義的な認識規範の捉え方を見出すことの重要性である。 これを受けて本年度は、現代における認識的正当化に関する信頼性主義を検討する研究を行った。これは、現代の認識論研究における独立の成果であるとともに、哲学史研究でもある本研究が指針とする合理的再構成の予備段階でもある。 その主たる成果は、2020年10月10日にオンラインで開催された日本科学哲学会第53回大会にて発表した「プロセス信頼性主義は集団の信念の正当化をどのように説明すべきか」である。この報告では、近年注目を集めているトピックである集団の信念とその正当化を題材として、ゴールドマンに代表される信頼性主義の射程と、他の対抗理論との対照で浮かび上がるその特徴を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究がおおむね順調に進展していると評価できる主たる理由は、ヒュームの理論哲学を合理的に再構成する予備段階として、しばしば彼に帰される立場である信頼性主義に関する現代的な議論を参照し、その射程と特徴について一定の洞察が得られた点である。これは、ヒューム解釈の方針として信頼性主義解釈を取るとき、現代的なバリエーションと対照して彼がどのような意味で信頼性主義者と言えるのか、またそうだとすれば彼の理論にどのような美点があるのかを検討する上で、議論の土台となることが期待される。 また、新型コロナウイルスの感染拡大によって各学会の開催が変則的になる中でも、成果発表の機会に恵まれた。この点も研究におおむね満足な進捗を得られたと言える理由の一つである。2020年10月にオンラインで開催された日本科学哲学会で行った研究発表では、現代の認識論を専門とする研究者らから有益なコメントを得ることができた。 今年度は予定より延長して2021年1月まで育児休業(うち2020年8月から12月までは研究再開準備支援)を取得し、また新型コロナウイルス感染拡大の影響で研究発表の機会が限られる中ではあったが、まずまずの進展を見ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究では、しばしばヒュームに帰せられる認識論上の立場である信頼性主義について、現代的な議論を踏まえて一定の洞察を得ることができた。まずはこの研究をさらに発展させ、昨年度の研究で示した解釈におけるキー概念である「阻却事由(defeater)」と信頼性主義の関係ついて研究を進める予定である。 また、L. E. LoebやF. Schmittらの、ヒュームを信頼性主義者として解釈する研究を参照し、今年度の研究で得られた現代の議論に関する知見を踏まえつつ、ヒューム的な信頼性主義と現代の信頼性主義の異同を見定め、彼の認識論上の見解の特徴を明らかにするとともに、因果論における彼の論証との関係を問うことが今後の課題となる。 来年度も学会などの開催が変則的になることが予想されるが、古典研究と現代的な研究を往還する本研究には、それぞれの分野における専門家と議論を交わすことが不可欠である。そのため、国内外を問わず研究発表や論文公開の機会を見つけて研究の進展を図るつもりである。
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