2019 Fiscal Year Annual Research Report
蛍光プローブライブラリーを用いた感染症迅速検出蛍光プローブの開発と創薬への展開
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19J21205
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤田 恭平 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 感染症 / 診断 / 蛍光プローブ / グリコシダーゼ / プロドラッグ / 癌 / 乳癌 / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 感染症迅速検出蛍光プローブの開発 臨床現場では感染症の原因菌特定に数日から数週間を要する為、迅速な菌種の識別が難しい。所属する研究グループでは、特定の酵素と反応して蛍光を発する「蛍光プローブ」と呼ばれる分子ツールの開発を行ってきた。新たに細菌種に特異的な酵素活性を見出す事ができれば、これを蛍光プローブを用いて検出し菌種を識別する事が可能となり得る。作年度の研究では、これまで精査されてこなかった細菌の糖質加水分解酵素(グリコシダーゼ)活性に着目し、分子内スピロ環化反応を蛍光制御原理として開発したグリコシダーゼ活性を検出可能な蛍光プローブ群の評価を13種類の臨床で重要な細菌のライセートに対して実施した。結果、臨床現場で選択的かつ迅速な検出が必要とされる黄色ブドウ球菌やジフテリア、歯周病菌などでいくつかのグリコシダーゼ活性検出蛍光プローブが選択的に応答する事を見出した。本検討で見い出されたグリコシダーゼ活性に関しては、今後菌種の迅速検出、さらには特異的酵素活性を受けて薬効を有するようになるプロドラッグの標的などに利用できる可能性が期待される。 2.乳がん迅速検出蛍光プローブの開発 感染症以外の臨床分野に対しても開発した蛍光プローブを応用する検討を行った。具体的には、乳癌手術の切除断端のがん検出を目的として、有効なグリコシダーゼ活性検出プローブの探索を実施した。その結果、中でもa-マンノシダーゼ活性検出蛍光プローブが高い感度・特異度で浸潤性乳管癌や非浸潤性乳管癌などのヒト乳癌組織を迅速可視化できる事が明らかとなった。さらに、乳癌組織に比べ、良性腫瘍である乳腺繊維腺腫ではこのプローブがより大きく応答する事を見出し、悪性腫瘍と良性腫瘍の酵素活性に基づく識別にも成功した。a-マンノシダーゼ活性検出蛍光プローブは、今後乳癌手術における切除断端の蛍光診断などへの応用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
開発したグリコシダーゼ活性を検出可能な蛍光プローブ群の評価を臨床で扱われる細菌ライセートに対して実施した結果、選択的かつ迅速な検出が必要とされる黄色ブドウ球菌やジフテリア、歯周病菌などでいくつかのグリコシダーゼ活性検出蛍光プローブが選択的に応答する事を見出した。これらの標的酵素には報告がされていないものも含まれており、開発したグリコシダーゼ活性検出蛍光プローブの探索で初めて明らかとなった成果と言える。また、見いだされたグリコシダーゼ活性は今後菌種の迅速検出、さらには特異的酵素活性を受けて薬効を有するようになるプロドラッグの標的酵素などに利用できる可能性が期待される。 また、感染症以外の分野へも申請者が開発したグリコシダーゼ活性検出蛍光プローブ群を適用したところ、a-マンノシダーゼ活性検出蛍光プローブが高い感度・特異度でヒト乳癌組織を迅速可視化できる事が見出された。a-マンノシダーゼはこれまでに乳癌で標的として着目されてこなかった酵素であり、イメージングバイオマーカーとしてだけでなく治療標的としても今後期待される。 上記のように感染症と癌の両分野においてその診断に利用できる可能性を有するグリコシダーゼ活性を新たに発見する事に成功した為、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 感染症迅速検出蛍光プローブの開発 前年度までの細菌ライセートにおける評価で見出された菌種特異的な酵素活性を検出する蛍光プローブを用いて、実際の患者からの血清サンプルや唾液サンプルなどのライセート臨床検体での応答性を評価する。さらに、有効だと見出された標的に関しては、その酵素活性を副作用を軽減したプロドラッグ型抗菌剤への開発へと応用する。 2.Tetrazine Click反応を用いたFRET型蛍光プローブの細胞内合成 今年度は、新規蛍光検出系としてTetrazine Click反応に着目した細胞内でのFRET型蛍光プローブ合成を試みる。FRET型蛍光プローブは、生体物質を定量的にイメージングする際に現在最も汎用されている蛍光プローブであるが、2波長の色素を用いたFRET型プローブの場合一般的に溶解性が乏しく細胞内への導入が難しいという課題がある。これらの課題を克服する為に、FRETドナーとFRETアクセプター分子を別々にTetrazine基とtrans-cyclooctene基で標識する事によって、細胞内でTetrazine Click反応を起こし、本来のプローブ機能を有する完成体のFRET型蛍光プローブを合成する事を試みる。具体的には、まずグルタチオン濃度変化を可逆的かつ定量的に検出可能な蛍光プローブQG3.0をモデルとして、FRETドナーにRhodamine Green、FRETアクセプターにSiR610蛍光団を選定し、上記の戦略の有効性を評価する。細胞内でのFRET型蛍光プローブ合成のコンセプトが確立できれば、グルタチオンだけでなく様々な細胞内標的に応用する事が可能であると考えられ、将来的に生きた細胞や細菌などのイメージング・診断技術への応用が期待される。
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