2019 Fiscal Year Annual Research Report
ラミニン分子がヒト小腸オルガノイドの増殖と安定性に与える影響の解析とその創薬応用
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19J21382
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山下 智起 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ヒト腸管オルガノイド / 十二指腸 / 薬物動態 / 単層膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
札幌医科大学の仲瀬裕志教授より、十二指腸9例、空腸1例、回腸6例、上行結腸8例、横行結腸4例、脾湾曲1例、下行結腸1例、S状結腸1例、直腸3例、の計34例についてヒト腸管生検組織の供与を受け、ヒト腸管オルガノイドの樹立を試みた。その結果、現在までに21例の樹立が成功しており、腸管のいずれの部位からでもヒト腸管オルガノイドの樹立ができる技術基盤が整ったと言える。樹立が成功したヒト腸管オルガノイドについては、継代培養を重ねつつストックの作製を行い、各種実験基盤の整備を行った。中には10ヶ月以上の継代培養が可能な株も存在することから、特定の株を用いた均質で大規模な実験を行うことが可能であると考えられる。 創薬研究応用を見据え、継代維持培養中には三次元構造をとっているヒト腸管オルガノイドの単層膜化を試みた。各種の予備検討の結果、適切にコーティングを施した培養平面に比較的高密度でヒト腸管オルガノイド由来の単細胞を播種することにより、播種後3日程度で間隙のない単層膜を形成し、播種後4-7日程度で各種の評価に用いることが好ましいと考えられた。また、種々の形態学的評価より、作製されたヒト腸管オルガノイド由来単層膜は極性を有した吸収上皮細胞であると考えられた。単層膜培養は現状の創薬研究において最も汎用性と利便性が高い培養形態であり、ヒト腸管オルガノイドを単層膜化することができれば各種の応用が加速することが考えられる。 以上のような創薬応用に向けた基礎的知見について学会発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初、ヒト腸管オルガノイドの樹立が思うように成功しない事象が数回続き、研究の進行が危ぶまれたが、実験者独自の所感とこれまでの文献情報を緻密に調査することにより、手技の改善・最適化が行われた結果、高確率で樹立に成功できるまでとなった。樹立したヒト腸管オルガノイドの例数もこの1年間で34例と、少なくない数をこなすことができていると評価している。特に薬物動態に大きく寄与する小腸領域のヒト腸管オルガノイドについては、十二指腸9例、空腸1例、回腸6例の計16例の樹立に成功していることから、今後様々な応用が期待される。樹立されたヒト腸管オルガノイドに関しては継代・増幅の後ストック化を行っており、各種の検討に使用され得る研究基盤が整ったと言える。 本年度はヒト腸管オルガノイドの樹立に加え、その単層膜培養の開発にも取り組んだ。特に創薬研究応用を見据えた際には、維持培養中の三次元構造が各種アッセイの障壁となるため、ヒト腸管オルガノイドを単細胞にまで解離させた後、適切にコーティングを施した培養平面に比較的高密度でヒト腸管オルガノイド由来の単細胞を播種することにより単層膜化を試みた。その結果、良好な機能を有する単層膜を作製することに成功し、今後の各種検討に容易に応用できると考えられる。 年度末にかけては新型コロナウイルスの影響が研究活動にも影響したが、本年度の研究について、全体としては概ね順調に進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
作製したヒト腸管オルガノイドを、大阪大学蛋白質研究所の関口清俊教授より供与いただく予定の各ラミニン分子(12種類以上)を用いた培養系に移し、1ヶ月間培養する。培養中のヒト腸管オルガノイドについて、受け入れ研究機関が所有する各種顕微鏡を用いて観察し、得られた画像を定量し、継代後の増殖率等を評価する。これにより、ヒト腸管オルガノイドの安定的な増殖を最も促進すると考えられるラミニンアイソフォームを選定する。 Matrigel、または上記評価においてヒト腸管オルガノイドの安定的な増殖を最も促進すると考えられたラミニンアイソフォームを用いてヒト腸管オルガノイドを培養し、10日間ほど継代維持したサンプルと2ヶ月以上継代維持したサンプルをそれぞれ複数回の独立試行により回収する。まず、取得したサンプルについて、染色体異常の有無を核型解析により評価する。また、マイクロアレイ解析によって網羅的な遺伝子発現プロファイルを取得し、Matrigelを使用した群とラミニンを使用した群の間で特に変動の大きかった遺伝子群について意味づけを行う。この検討により着目すべきであると判断された遺伝子群と一般的な腸管上皮マーカーについては、定量的RT-PCRによる検討を重ねる。また、各解析と並行して試行回間・well間のばらつきを評価する。 さらに、作製したヒト腸管オルガノイド由来単層膜を用いた薬物動態試験について検討を進め、その応用可能性についても評価を進めていく。
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Research Products
(3 results)