2019 Fiscal Year Annual Research Report
Japanese Intellectuals' Experience in the Soviet Union during the interwar period : Organization, Tourism and Publishing
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19J21496
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
吉川 弘晃 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 日ソ関係史 / 文化交渉史 / 対外認識論 / 国際関係史 / ツーリズム / 文化外交 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、日ソ国交回復(1925)前後の文化交流の動向について芸術展覧会の開催に注目した。短期的な世界革命の実現可能性が小さくなった1920年代、国際的孤立を防いで外交パイプを修復するため、ボリシェヴィキ政権は周辺諸国との文化外交に力を入れはじめた。その文脈において芸術展覧会は各国社会で共産主義への警戒を避けつつソ連文化を宣伝する場として適当であった。報告者は、国交回復(1925)後の初の大規模な日ソ文化交流事業としての「新ロシヤ展」(1927)を具体的な検討事例として設定し、日本では国立国会図書館・日本近代文学館(東京)、ロシアでは国立公文書館(ГАРФ)・国立文学芸術文書館(РГАЛИ)(モスクワ)にて調査を行った。 その結果、「新ロシヤ展」が日本政府などの財政的支援を期待できなかったり、日本側の対ソ交流組織とソ連政府の連絡が不都合であったりしたこと、世界的な金融恐慌の影響で展覧会の商業的成果(出品作の販売)が出なかったことなどが明らかになった。以上の事象は従来の研究では日本側史料から推測されていたのみであったが、日露双方の史料からより確実性のあるものとなった。次に、ソ連側の対日文化宣伝の担当者が残した報告から、本展覧会以前に日本で開催したイベントでの失敗への注意や、日本側の交流組織の動向に対する様々な認識が明らかになった。その後、11月初に国立台湾大学で開催された東アジア日本研究者協議会第4回国際学術大会にて以上の成果を報告し、国内外の様々な分野の研究者と意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画では、日本知識人のソヴィエト経験についてその草創期(1920年代)を中心に扱うことになっていたが、果たして日露両国で収集した史料に基づく一定の成果をあげることができた。また日本でのソ連像受容を世界史的に位置づけるため、西欧諸国の知識人の事例についても先行研究の検討や史料の翻訳といった形で、以上と並行しながら検討を行っている。これらの研究は国内外での数度の口頭報告として成果に結びついた。 とはいえ、先行研究や資料があまりに多く見つかったために批判的検討が追いついておらず、微視的な調査と巨視的な枠組の設定を結合させられなかった。従って、今年度中に投稿論文を公刊するまでには至っていない。さらに今年度末以来、コロナウイルスの全球的な蔓延が国内外での追加調査や国際学会への参加を不可能にしたことは、以上の困難を少しばかり加速させている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、国交回復前後の1920年代中盤から時間的射程を拡げて日ソ文化交流の動向を検討する。その中で「日本知識人のソヴィエト経験」に関する多くの資料を選別・整理すべく、その基盤となる問題枠組やテーマ全体を一貫する概念を打ち出すことに注力する。そのため、先行研究の批判的検討を進めるとともに、今年度は閲覧できなかった1930年代末までの対日文化交流に関する日露双方の史料を網羅的に閲覧しようと計画していた。 しかし今年度末(3月)以来、コロナウイルスの蔓延が在外調査を困難にする可能性が大きい。一方で、戦間期の日本知識人の対ソ交流組織が予想以上に多く存在すること、20世紀初から「満洲」地域を含めた日本帝国各地で残された膨大なソ連・ロシア研究が日本知識人のソヴィエト経験の大きなヒントになりえることが判明している。 そこで、報告者は少なくとも令和2(2020)年度は、日本国内で入手・閲覧可能な史料によって検討可能な箇所・課題に専念することで博士論文の執筆を進めることとする。なお、今年度の国際学術報告の論文化、西洋諸国や中国でのソ連の文化事業や現地知識人の関与についての比較史的検討なども並行して進める。
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