2020 Fiscal Year Annual Research Report
銀カルベノイド種の特性を利活用した反応開発と未利用天然物の合成
Project/Area Number |
19J21528
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
植田 潤 千葉大学, 医学薬学府, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 銀カルベノイド / 脱芳香族化 / スピロ環化反応 / 計算化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度に開発した銀触媒によるインドール類の化学選択的脱芳香族型不斉スピロ環化反応に関して、1)反応成績体に対する誘導体化の検討2)実験による反応の解析3)理論計算による反応機構解析の3点に取り組んだ。また、金属触媒を用いない系にて、同様のインドール誘導体に対するipso-Friedel-Crafts型スピロ環化反応の開発にも取り組んだ。 1)脱芳香族化反応の成績体であるスピロインドレニンに対し、他のスピロ化合物への変換を検討した。直截的なインドレニンの不斉還元は困難であったが、ラクタム環を立体選択的にアルキル化した後に、還元反応に付すことで、3連続不斉中心を有するスピロインドリン骨格への変換に成功した。また、同様のスピロインドレニンは適切な酸化条件により、立体を保持したままスピロオキシインドール骨格へ変換可能であった。2)不斉増幅の確認、及び反応速度論解析を行った。結果として、不斉増幅は確認されなかったため、本反応の立体選択性決定段階において、キラルリン酸銀触媒は1分子のみ関与していると示唆された。また、速度論解析より、律速段階への安息香酸の非関与が示唆されたため、基質のジアゾ化合物と銀触媒が複合体を形成する段階が律速段階であると考察している。3)DFT計算により、反応機構を解析した。その結果、本反応はこれまでの銀カルベン反応の報告例とは異なり、報告例の無かった非同期協奏型機構で進行する、銀カルベノイド反応であることを明らかにした。 2つ目のテーマでは、種々条件検討の結果、マレイン酸とチオウレアを触媒として用いる条件にて、高収率で目的物が得られることを見出した。DFT計算により、チオウレアが反応系中において、水素結合のドナーとアクセプター二つの役割を担っており、効率的なスピロ環化反応の進行に寄与していると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
銀触媒の特性を活かした化学選択的不斉スピロ環化反応では、前年度中に反応条件の最適化及び基質適用範囲の検討を行っていた。そのため本年度は反応成績体の誘導体化や反応の詳細な解析に取り組んだ。その結果、反応により得たスピロインドレニン類を、立体選択的にスピロインドリン化合物やスピロオキシインドール化合物へ変換することに成功した。また、実験化学と計算化学の両面から詳細な反応の解析を行った。具体的には不斉増幅の確認や反応速度論解析に取り組み、理論計算による反応経路の算出にも取り組んだ。その結果、律速段階の考察やエナンチオ選択性発現機構の議論が可能であった。 マレイン酸とチオウレアによるインドール類の脱芳香族化反応では、比較的弱いブレンステッド酸触媒であるマレイン酸に対して、チオウレアの添加により、高収率でスピロインドレニン化合物が得られることを見出した。DFT計算によりチオウレアが水素結合の供与体/受容体として働いて、遷移状態の安定化に寄与すると明らかにした。また、銀カルベノイド反応では有効な結果が得られなかった、C6-またはC7位に置換基を有する化合物に対しても有効な結果を得ている。 この様に申請者は、触媒の特性を活かした反応開発に取り組み、特に銀触媒を用いた系では、これまで報告されている銀カルベン反応とは異なり、非同期協奏型機構で進行する銀カルベノイド反応である新たな知見を得た。 以上より、本研究の進捗状況としては、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在までに、申請者は銀触媒がロジウム触媒とは異なる反応性を示すこと、反応系によって異なる遷移状態を経ることを明らかにしている。これまでに得られた知見を基に、銀触媒の特性を活かした更なるカルベン反応の開発に取り組む。また、新たな基質に対する脱芳香族化反応の開発に取り組み、理論計算を用いた反応機構の解析も同時に行う。
|
Research Products
(3 results)