2019 Fiscal Year Annual Research Report
A Preliminary Study of the Military Pension System in Modern Japan
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19J21550
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
田中 将太 立命館大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 軍人恩給制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近代日本における軍人恩給制度を詳細に検討することによって、明治維新によって誕生した、近代国家としての日本が、どのようにして国民の生存に対する保障と国家の安全保障を両立させようとしたのかを探ることを目的としたものであった。また、近代以降の制度化された福祉制度の成り立ちを、探るということをも目指したものであった。 これらの目的のため、本年度においては明治8年の「陸軍武官傷痍扶助及ヒ死亡ノ者祭粢並ニ其家族扶助概則(以下、扶助概則)」に端を発する軍人恩給制度の立法上の節目に着目して、個人文書や新聞資料をもとに、各立法時の背景を踏まえた制度史の構築を目指して研究を進めた。 その結果として、明治8年の扶助概則から、明治23年の軍人恩給法成立によって一旦の制度的確立を見たとされている軍人恩給制度が、実はその法律でカバーしきれない人々の存在を重視した政治的アクターによるロビイングの結果として、明治24年に出された追加法令によって補完された点を重視すべきであるということに思い至った。 続く明治30年代には、下関条約の結果として、台湾を植民地として領有したことにより、「日本」の範囲が拡大するにあたって、軍人恩給制度を新領土にどのようにして適用していくのかという新たな問題が生じた。これら明治期特有の諸問題に重点を置いて研究を進めた結果、大正・昭和期については、後述する厚生省の問題を除いてあまりふみこんだ研究ができなかったのが悔やまれる。 これらの研究成果の一部は、2020年3月に台湾二二八国家記念館で開催された第二屆台灣日本歴史文化研究交流會において研究報告を行い、現地の教員・大学院生らと活発な議論を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前述の通り、本年度においては明治30年代ごろまでを中心として研究を進めたが、その結果として、予定ではある程度手を付けている予定であった大正・昭和期の軍人恩給制度に関しては、あまり手を付けることができなかった。 具体的には、大正12年恩給法および、昭和8年の改正という、軍人恩給制度史において欠かすことのできない立法上の二大変革についてほとんど踏み込んだ研究を進めることができなかった。 また、これも前述の通り、海外学会における研究報告は行ったものの、論文のかたちでの研究成果の発表を行うことができなかった点も悔やまれる。 しかし、昭和期における厚生省の成立と、戦中戦後を通して見た軍人恩給制度の変遷という新しい課題を設定できたことは一つの成果であったといえる。この課題を解決するために、内務官僚・厚生官僚として、戦後には初代社会保険庁長官や厚生事務次官を務めた高田浩運の膨大な日記を、所属している研究会のメンバーとともに解読した。そのうち一部を翻刻し、史料紹介のかたちで研究雑誌に掲載することができた。この中には、恩給と厚生年金の併給問題など、恩給制度の戦後史を考えるうえで外すことのできない重要な問題について、厚生省の局長~次官クラスとしてかかわってきた高級官僚による赤裸々な意見や厚生省内部の事情などが詳細に記載されており、今後の研究に対して大きな影響を与えることは間違いない。 これらの事情を斟酌し、以上のような自己点検と評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、前年度の成果として重視することになった課題を中心に研究を行う。 具体的には、明治30年代における新規獲得領土と恩給制度の関係・厚生省の設置化から国民皆年金達成までの時期の二点である。また、当初の計画通り、大正12年・昭和8年を中心とする大正・昭和戦前期についての研究も並行して行う。 成果の発表方法に関しては、遅れている論文のかたちでの発表に全力をそそぐつもりである。
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