2020 Fiscal Year Annual Research Report
非晶質ナノシリカの獲得免疫を介したハザード発現機序解明とハザード回避の方法論確立
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19J21577
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
衛藤 舜一 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ナノマテリアル / 免疫毒性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、非晶質ナノシリカの複数回曝露により誘導される獲得免疫系を介した肝障害の増悪に関して、ナノマテリアルの物性や動態情報との連関解析や、ハザード発現機序解明を通じ、獲得免疫系を介したハザードを低減可能なナノマテリアルの医用工学的最適設計に資する情報収集を目指したものである。当該年度は、既にハザードを誘導することを見出している粒子径50 nmの非晶質ナノシリカ(nSP50)を用いて獲得免疫系を介したハザード発現機序解明を中心に行った。 まず、これまでの研究でnSP50の前投与により、脾細胞再刺激時の産生が促進されるIFN-γに着目し、その役割を追究した。その結果、抗IFN-γ抗体を用いて活性を阻害した際に、肝障害が緩和したことが示された。従って、IFN-γがnSP50による獲得免疫系の活性化に重要な役割を果たしていることが示唆された。次に、実際に細胞傷害活性を担う細胞種の同定を試みた。肝臓より作製した単細胞懸濁液をフローサイトメーターにて解析した結果、PBS前投与群と比較してnSP50前投与により、細胞傷害性T細胞画分でのみ、パーフォリン等細胞傷害活性分子の脱顆粒によって細胞表面に露出するLAMP-1の蛍光強度が増加した。従って、肝臓中の細胞傷害性T細胞の脱顆粒が促進され、細胞傷害性T細胞の活性化により殺細胞活性を発現したことが示唆された。従って、nSP50による獲得免疫系の活性化および殺細胞活性はIFN-γにより活性化されたCD8陽性T細胞が関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は、自身が同定した非晶質ナノシリカの複数回曝露により誘導される獲得免疫を介したハザード発現を足掛かりに、ナノマテリアルの物性や動態との連関解析を行う「ナノ安全科学研究」と、ハザード発現機序解明等によりナノマテリアルの最適化を目指す「ナノ最適デザイン研究」を両輪とした研究を推進している。当該年度は、これまでの研究結果をもとにハザード発現機序解明を行った。その結果、IFN-γが本ハザードに関与していることを見出した。さらに、本ハザード誘導条件下ではCD8陽性T細胞からのIFN-γ産生量が大部分を占めること、IFN-γにより活性化される免疫細胞の中では、肝臓中でのCD8陽性T細胞の活性化が誘導されることなど、IFN-γを中心としたハザード発現機序を明らかにした。これら結果は、ナノマテリアルの獲得免疫を介したリスク低減を実現した最適デザインを構築する足掛かりとなるものであり、ナノテクノロジーの持続的な発展に資する基盤情報になり得る。さらに、本ハザードは、ナノマテリアルのサイズ、表面修飾との連関解析の結果、ハザード発現は、表面修飾には依存せず、サイズ特異的に誘導されることなど、物性-動態―ハザードの連関解析による情報収集もこれまで精力的に取り組んでおり、「ナノ安全科学研究」と「ナノ最適デザイン研究」いずれの車輪も前進している。今後さらに発展的な研究が必要ではあるものの、次年度の研究活動を進めるうえで、重要な情報収集は達成されており、当該年度は期待通りの研究の進展が認められたと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度はIFN-γに着目し、nSP50による肝障害誘導メカニズムの解明を進めてきた。その結果、IFN-γにより活性化されたCD8陽性T細胞が肝細胞を傷害している可能性を示した。しかしながら、肝臓とIFN-γのかかわりは様々報告されており、肝細胞にIFN-γ受容体が発現しており、IFN-γにより直接細胞死が誘導されることや、逆に肝臓のみに存在する自然リンパ球(ILC1)によりIFN-γを介した肝臓保護作用が報告されている。本研究結果においても、抗CD8抗体や抗IFN-γ抗体投与による肝障害増悪の抑制は、劇的ではあるものの完全ではなく、様々なメカニズムがせめぎあっている結果であると考えられる。そこで今後は、IFN-γが直接肝障害に及ぼす影響等にも着目しつつ研究を進めていく必要があると考えられる。 以上、当該年度はIFN-γの役割を中心に非晶質ナノシリカの前投与による肝障害の増悪メカニズム解明を行い、ある程度の進捗は得られた。次年度は、上記の解析結果、昨年度の研究結果を受け、非晶質ナノシリカの物性とハザード、表面蛋白質の連関解析をはじめとする、より広範な安全性情報の収集と、より詳細なメカニズム解明を推進することで、本研究課題の目的を達成できると確信している。
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