2019 Fiscal Year Annual Research Report
生理学的機構を考慮した代替生活史意思決定モデル構築とその個体群への波及効果の解析
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19J21686
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
堀田 淳之介 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 生活史意思決定 / 代替生活史戦術 / 生理動態モデル / 個体間相互作用 / winner-loser effect |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、ホルモン産生と闘争間のフィードバックループによって動物の生活史選択がどのように決定されるのかを明らかにすることを目標としている。生物の中には個体によって異なる生活史を採用する種が存在する。この現象は代替生活史戦術と呼ばれ多くの分類群で確認されている。本研究で取り扱うサクラマスは河川で繁殖を行い、孵化後一部の個体は河川に残留するが(残留型)、他の個体は海に降り成長する(降海型)。この表現型の違いは成熟因子である雄性ホルモンの濃度によって現れる。ホルモンの濃度が個体間相互作用によって変動することに着目し理論研究を行った。2019年度はサケ化魚類の生理学的機構と、個体間の闘争を組み合わせた生理動態モデルを構築し解析を行った。 個体間の闘争による勝敗の経験が雄性ホルモンの産生量を調節する様子をモデル化した。具体的には資源をめぐる闘争の結果、勝者は成熟因子がより産生されやすく、その結果より行動が攻撃的になることをモデルに組み込んだ。その結果、闘争後の生理状態に対する鋭敏性が大きい時に個体群内での生理状態がふた山に分かれることが明らかとなった。また、内分泌的な要因を元に意思決定することで変動環境下においても柔軟に意思決定が可能になることが明らかとなった。さらに個体同士の闘争頻度が低いほど順位制の入れ替わりが多く生じることが分かった。これらの結果から、代替生活史戦術はホルモン動態と闘争を介した順位制の決定により発現し得ることが明らかとなった。生物の意思決定を調べるためには個体の状態のみを調べるのではなく、個体の行動と内分泌的な状態の関係性を調べることが重要である。これらの結果を国内・国外の学術集会で発表し、論文として取りまとめ国際誌に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に即して、サケ化魚類の生理学的機構と、個体間の闘争を組み合わせた生理動態モデルを構築し解析を行い、動物の生活史選択が内分泌系と個体間相互作用の間の正のフィードバックループによって代替生活史戦術が発現することを理論的に明らかにした。この結果は生物の意思決定を調べるためには個体の状態のみを調べるのではなく、個体の行動と内分泌的な状態の関係性を調べることが重要であることを示すものである。研究結果を英国生態学会、日本数理生物学会、日本生態学会など国内外の学術集会で発表するとともに、成果を論文として取りまとめ現在国際誌に投稿中である。 着実に研究を進めるとともに当初の計画を超えた取り組みも行った。サケ科魚類で構築したモデルをその他の動物へ応用し、より一般的な視点から動物の生活史進化を理解しようという試みである。2020年2月にはアメリカのモンタナ大学の研究室に2週間滞在しセミナーを行ったことで、滞在先研究室のDouglas Emlen 教授との共同研究が始まった。Emlen教授は動物の武器形質二型の専門家でありこの分野の第一人者である。Emlen教授との共同研究は、これまではサケ科魚類の生活史選択のみに焦点を当てて研究を進めてきた視野を広げ、他の分類群の二型(主に武器形質に注目したもの)がいかに発現するかを説明する統合モデルへの発展を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
本モデルでは個体の内分泌的な状態と、個体間の闘争のみを記述した非常にシンプルなモデルである。サケ科魚類のみならず、代替生活史戦術を持つその他の生物への応用も可能である。また、武器形質の多型形成や、群れの中で順位制を形成するメカニズムへの理解にも有用であると考えており、動物の意思決定を一貫して説明できる理論の構築へと発展を目指す。また、飼育下でのホルモンデータを採取することで実際の順位制と内分泌的な状態の関係がモデルでの予測と合致しているのかを確かめることで、モデルの妥当性の検証を予定している。また、一年目の結果を踏まえて、ホルモンの合成経路を考慮した、より精緻な数理モデルを構築する。これによりより個体の内部状態を解析することが可能になる。systems biologyの基本単位であるネットワークモチーフのモデリングを応用する。さらに、サケ科魚類で構築したモデルをもとに動物の武器形質の二型の発現を説明するための理論を構築する。この研究を進めるにあたり、Montana大学のDouglas J. Emlen教授のと共同研究を行う。多くの動物は武器形質を持つ。例えばオスのシカは複雑に分岐した角を発達させる。鹿の角の大きさは順位制と相関があり、角の役割は闘争に用いられるとともにメスが繁殖相手となるオスを評価する基準として用いられる。角の発達は雄性ホルモンによって促進され、このホルモンは闘争に勝利するほど産生されやすい。そこでこれまでサケ科魚類で用いてきた理論をもとに、闘争-ホルモン産生-角の発達が互いに関連し、順位制と角のサイズの多型が創出される機構を数理モデリングする。コンピュータシミュレーションを用いて解析し、内分泌レベルから行動と武器形質発達までを統合した理論を構築する。
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Research Products
(5 results)