2020 Fiscal Year Annual Research Report
生理学的機構を考慮した代替生活史意思決定モデル構築とその個体群への波及効果の解析
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19J21686
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
堀田 淳之介 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 生理動態モデル / 順位制 / 個体間相互作用 / winner-loser effect |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、ホルモン産生と闘争間のフィードバックループによって動物の生活史選択がどのように決定されるのかを明らかにすることを目標としている。生物の中には同種にも関わらず優位な個体と劣位な個体で行動の違いが観察される。この現象は順位制と呼ばれ多くの分類群で確認されている。この行動の違いは雄性ホルモンの濃度によって現れる。ホルモンの濃度が個体間相互作用によって変動することに着目し理論研究を行った。2020年度は個体の生理学的機構と、個体間の相互作用を組み合わせた生理動態モデルを構築し解析を行った。個体間の闘争による勝敗の経験が雄性ホルモンの産生量を調節する様子をモデル化した。具体的には資源をめぐる闘争の結果、勝者は雄性ホルモンがより産生されやすく、より行動が攻撃的になることをモデルに組み込んだ。また、雄性ホルモンが高い個体ほど闘争頻度が大きくなるとした。その結果、ホルモン産生と闘争間の正のフィードバックがはたらく時に個体群内で順位制が構築されることが分かった。また、雄性ホルモンが闘争頻度を上昇させる効果が大きい場合に1個体のみが優位に振る舞う順位制(ハレム)が見られることが明らかとなった。さらに雄性ホルモンによって闘争の勝率が大きくなる効果が強くはたらく場合に線形の順位制となることが明らかとなった。この効果が程よくはたらく際には優位な個体群と劣位な個体群の二つに分かれる順位制が見られた。これらの結果から、多様な順位制構造はホルモン動態と闘争間のフィードバックループにより発現し得ることが明らかとなった。動物の意思決定を調べるためには個体の状態のみを調べるのではなく、個体の行動と内分泌的な状態の関係性を調べることが重要である。これらの結果を国内の学術集会で発表した。また論文として取りまとめ、現在執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画をやや変更し、生理学的機構と、個体間の闘争を組み合わせた生理動態モデルを構築し解析を行なった。動物の行動と内分泌系間の正のフィードバックループによって集団内の順位制が形成されることを理論的に明らかにした。この結果は生物の意思決定を調べるためには個体の状態のみを調べるのではなく、個体の行動と内分泌的な状態の関係性を調べることが重要であることを示すものである。研究結果を日本数理生物学会、日本生態学会など国内の学術集会で発表するとともに、成果を論文として取りまとめ現在執筆である。さらに当初の計画を超えた取り組みも行った。具体的にはサケ科魚類を用いて齢構造を考慮した進化動態モデルの構築を行なった。サケ科魚類のモデル研究ではオスの生活史について注目されることが多いが、個体群動態を考える際にはメスの生活史に着目することが必要不可欠である。メスの適応度を算出するためのモデルを考案し、コンピュータシミュレーションによって個体群が存続するために必要な環境条件を調べた。その結果、海洋・河川での生存率が著しく低い場合には個体群が絶滅することが明らかとなった。また、個体群が存続している状況では、常に個体群は安定していることも明らかとなった。本研究の結果も現在論文として執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本モデルでは個体の内分泌的な状態と、個体間の闘争のみを記述した非常にシンプルなモデルである。順位制のみならず、武器形質の多型形成や、社会性昆虫などでのカースト分化を形成するメカニズムへの理解にも有用であると考えており、動物の意思決定を一貫して説明できる理論の構築へと発展を目指す。当初の計画では、この研究を進めるにあたり、Montana大学の Douglas J. Emlen教授との共同研究を行う予定であったが、コロナウィルスの影響もあり2020年度は計画が見送りとなった。2021年度では可能な限り計画が進むように努めたい。Montana大学では武器形質の多様性の創出に関する研究を予定している。多くの動物は武器形質を持つ。例えばオスのシカは複雑に分岐した角を発達させる。鹿の角の大きさは順位制と相関 があり、角の役割は闘争に用いられるとともにメスが繁殖相手となるオスを評価する基準として用いられる。角の発達は雄性ホルモンによって促進され、このホルモンは闘争に勝利するほど産生されやすい。そこでこれまで用いてきた順位制形成の理論をもとに、闘争-ホルモン産生-角の発達が互いに関連し、順位制と角のサイズの多型が創出される機構を数理モデリングする。コンピュータシミュレーションを用いて解析し、内分泌レベルから行動と武器形質発達までを統合した理論を構築する。
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Research Products
(4 results)