2020 Fiscal Year Annual Research Report
気相中の衝突素過程における化学反応ダイナミックスの速度論的研究
Project/Area Number |
19J21707
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
天道 尚吾 広島大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 自己組織化単分子膜 / 金ナノ粒子 / パルスレーザアブレーション / 電荷移動ダイナミックス |
Outline of Annual Research Achievements |
末端基を官能基化した自己組織化単分子膜はナノサイエンスにおける様々な分野への応用が期待できることから幅広く研究されている。本研究員はチオール分子を被覆した金ナノ粒子を対象とし,分子の電気伝導性についてボトムアップ式のアプローチで研究を遂行している。本奨励費の繰越期間は,放射光を用いて非接触に分子の電気伝導性を決定でき,独自性のある実験(共鳴オージェ電子分光-コアホールクロック実験)を実施し,金基板または金ナノ粒子に吸着した様々な分子鎖長の芳香族チオールについて電荷移動ダイナミックスを評価した。 金ナノ粒子は,本研究費で購入した試料および備品を利用し,液中パルスレーザアブレーション法を用いて合成した。得られた金ナノ粒子を芳香族チオールのエタノール溶液に浸漬して金ナノ粒子上に自己組織化単分子膜を作製した。広島大学が所有する放射光施設HiSORビームライン13において末端基にメトキシカルボニル基をもつ芳香族チオール被覆金ナノ粒子のオージェ電子分光スペクトルを観測した。軟X線微細構造スペクトルにもとづいて励起光のエネルギーを選定しメトキシ基を選択的に励起することで生じる電子の金ナノ粒子への電荷移動時間をコアホールクロック解析から決定した。 電荷移動時間は支持金属を基板からナノ粒子へと置換すると遅くなり,分子鎖長が長いほど遅くなると判明した。分子鎖長依存性にもとづく電荷移動時間の比較から,基板系とNP系の分子エレクトロニクスとしての違いが電荷移動ダイナミクスへ影響すると判明した。孤立系である金ナノ粒子上での電気伝導性および電荷移動ダイナミックスを解明した本成果は,ナノデバイスや生体臨床医学などへの応用が期待できる。本研究内容はオンラインで開催された学会にて発表を行っており,現在,投稿論文を執筆中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究費の繰越期間では,電荷移動ダイナミックスの研究に適した試料の選定を目標としていた。軟X線分光スペクトル測定し,X線光電子分光スペクトルによる試料評価からメトキシカルボニル基をもつベンゼンチオールを金表面へ吸着した試料が本研究課題の実験に適していると判断し,オージェ電子分光測定を行った。以上のように,研究対象となる分子系を決定でき,電荷移動過程を評価するための実験を実施できたため,区分(2)を選択した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究費の繰越期間中に,金ナノ粒子上のメトキシカルボニル基をもつベンゼンチオール分子系について,内殻電子励起時に生じる電子が基板へと移動する時間を決定する手法である共鳴オージェ電子分光-コアホールクロック法により電荷移動時間を決定できた。今後は,高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリーBL-2Bにおいて飛行時間分解型質量分析実験を行い,内殻電子励起時に生じるイオンフラグメンテーション分布を調査する。内殻電子励起時に生じる電子の対生成物であるイオンを計測することで,電子とイオンの双方から電荷移動過程を相補的に調査して金ナノ粒子上の芳香族チオールについて,電荷移動ダイナミックスの体系的な評価を目指す。
|