2019 Fiscal Year Annual Research Report
荷電レプトンフレーバーを破るミューオン稀崩壊現象の探索による新物理理論の検証
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19J21730
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 暁 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 放射線耐性 / シリコン半導体光検出器 / 荷電レプトンフレーバー保存の破れ / ミューオン / ガンマ線 |
Outline of Annual Research Achievements |
荷電レプトンフレーバー保存を破る稀ミューオン崩壊探索を行なうMEG II実験の開始に向け、液体キセノンガンマ線検出器の性能評価を行なった。この液体キセノンガンマ線検出器は、ガンマ線のエネルギー・位置を高い分解能で測定するために、新しく開発された光検出器MPPCが導入されている。 年度前半は2018年に取得したミューオンビーム環境下での検出器の試運転データを解析し、MPPCの光子検出効率(Photon Detection Efficiency, PDE)が急速に減少している可能性を指摘した。計画段階で予期していなかったこの現象をより詳細に調査するべく、年度後半はMPPCの大強度ミューオンビーム環境下での長期安定性の評価実験を行なった。この実験の結果、急激なPDE減少を再現するとともに、その減少率を精度よく測定することに成功した。一方で、この減少を説明する仮説、および減少したPDEを回復する手法の考案にも取り組んだ。それまでの実験結果から、MPPCの表面付近が放射線によって損傷してPDEが減少したという仮説が最もよく実験結果を説明することがわかった。この仮説がもし正しければ、MPPCを室温より高い温度に熱する焼きなまし処理(アニーリング)によってPDEを回復できることが予測されることから、実験室での安全性の確認テストの後、検出器内部のいくつかのMPPCに対してアニーリングを施した。結果として、PDEをアニーリング前のPDEから最大80%程度増加させることに成功した。 まとめると、本年度は新しく開発された光検出器MPPCの性能が大強度ミューオンビーム環境下で放射線損傷を起こし大きく劣化してしまうという大きな問題が明らかになった。これに対応して、この減少を説明する仮説の構築および対処法の試験を行なった結果、焼きなまし処理が非常に有効であることを発見することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、較正用のLEDや放射線源を用いた光検出器の性能評価手法を確立した上で、新しく導入した光検出器MPPCの長期安定性の評価試験を行なった。結果として、2018年度のデータから示唆されていた光子検出効率(PDE)の急速な減少を再現し、その減少率を測定した。これは液体キセノンガンマ線検出器を長期にわたって運用する上で重大な問題点である。その一方でこの未知の現象を引き起こす原因に対して仮説を立て、焼きなまし処理(アニーリング)によって失われたPDEを回復できることを予想し、さらに実験を通してそれを実際に証明することができた。このように、今年度は新しく開発されたMPPCの性質についてより理解を深め、今後の運用に向け大きく経験を積むことができた一年であったと言える。 一方で、ビームタイム後半に予定していた高エネルギー単色ガンマ線を用いた検出器分解能の評価は、ビーム側のトラブルによって延期されたが、今年の年末に行なうことを予定しており、ビームタイムも確保されていることから、大きな問題とはなっていない。 これまで取り組んできた液体キセノンガンマ線検出器のコミッショニングは、この最終的な検出器分解能の評価によって目標性能を達成できれば完了することから、現在はこの評価実験の準備を行なっている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きMEG II実験における稀ミューオン崩壊の探索開始に向け、液体キセノンガンマ線検出器の試運転を完了することを目指す。2020年度の最も大きな目的は高エネルギー単色ガンマ線を用いた検出器分解能の評価を行ない、現在の液体キセノンガンマ線検出器の性能がMEG II実験の実験的要求を満足するか調べることである。特に、ガンマ線エネルギーは信号事象と背景事象を弁別する上で重要なパラメータであることから、信号由来のガンマ線と近いエネルギー領域での分解能が目標の1%を達成している必要がある。しかし、これまでの実験結果から、比較的低エネルギーの領域でエネルギー分解能を測定した結果からは、シミュレーションなどから期待されていた値に比べて有意に悪いことがわかっている。この悪化の原因はこれまでに特定できていないため、この未知の悪化要因がエネルギー分解能に与える影響を知る意味でもこの測定は重要である。 この評価実験に次いで重要なのは、MPPCのPDE減少について追加測定を行ない、放射線損傷の蓄積とPDE減少速度の関係を調べることである。PDEの減少が放射線損傷の蓄積によって穏やかになっていく場合はアニーリングの頻度を抑え、より長い期間検出器を運用できる一方で、そうでない場合は弱いビーム強度でのデータ取得やより頻繁なアニーリング処理が必要となる可能性がある。MPPCの性質について理解を深め、長期間にわたる物理データの取得に備え、より良い運転計画を立てるために必要な情報を収集することが本測定のねらいである。 また、今年度には最終版の読み出しエレクトロニクスの大量生産が始まる。この読み出しエレクトロニクスがノイズや安定性といった観点で実験の要求を満たすかどうかをテストする必要がある。
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Research Products
(11 results)