2020 Fiscal Year Annual Research Report
荷電レプトンフレーバーを破るミューオン稀崩壊現象の探索による新物理理論の検証
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19J21730
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 暁 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 素粒子物理実験 / ミューオン / ガンマ線 / 液体キセノン / 荷電レプトンフレーバー |
Outline of Annual Research Achievements |
素粒子物理実験領域では、素粒子の相互作用を説明する理論である標準理論を超える理論的枠組みの模索が行われている。特に、荷電レプトンフレーバー保存の破れ(cLFV)はいくつか提案されている新物理の枠組みで観測可能であり、その発見に大きな期待が寄せられている。MEG II実験はcLFV過程の1つであるμ→eγ崩壊を前身のMEG実験に比べ10倍の感度で探索する実験であるが、それに必要な高精度なガンマ線検出のために液体キセノンとそのシンチレーション光を検出する光センサーを使用する。 2020年度の目標は検出器のエネルギー分解能および時間分解能の測定を行い、新しい液体キセノン検出器が十分な分解能を持っているか調べることであった。測定はパイオンビームを液体水素ターゲットに導き、中性パイ粒子の荷電交換反応によって生じるガンマ線を使用して行った。読み出しエレクトロニクスの大量生産が終わっていないため、検出器中央部のみについて測定を行った。結果としては55 MeVのエネルギーを持ったガンマ線に対してエネルギー分解能は1.8%と、他の測定の結果と同程度の結果となった。一方で時間分解能は82psと測定されたが、これはシミュレーションなどからの予想 (50ps)よりも著しく悪い分解能であり、現在原因の調査が行われている。この測定を通してμ→eγ崩壊の探索において最も重要なパラメータの一つであるエネルギー分解能を測定できたほか、時間分解能の測定に関しては系統的不確かさについて理解が進めることができた。 もう一つの進展として、光センサーの放射線損傷を回復する手段としてジュール熱による焼きなまし(アニーリング)を確立し、十分な時間をかければ損傷をほぼ完全に回復できることを示すことができた。これにより、物理データ取得期間の合間にアニーリングを行うことで検出器をよい状態で長期間運転することが可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は当初の目標通り検出器の分解能を測定する実験を行うことができた。エネルギー分解能については従来の結果と同程度の分解能が得られた一方で、時間分解能についてはシミュレーションなどに基づく期待(50ps)から著しく悪い結果となった。この悪い時間分解能の理由としては光センサーの時間オフセットなどの較正が原因であると考えられ、今後解析の改善などにより最低でも前身のMEG実験における分解能(70ps程度)は得られるものとみられている。 また、物理データ取得における問題の一つとして光センサーの放射線損傷が指摘されてきたが、アニーリングによる損傷の回復を確かめたことにより、検出器を大強度ミューオンビーム環境下で長期間運転できる道筋をつけることができた。 したがって、実験全体としての計画通り、液体キセノン検出器の準備という観点からは2022年に物理データの取得を問題なく開始できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
MEG II実験における現時点の重要な目標は物理データの取得の開始であるが、それには読み出しエレクトロニクスを全数揃えることと、検出器の分解能を確認することの二つが必要である。 読み出しエレクトロニクスは2021年前半に大量生産が終わりインストールされる予定である。まずはこの読み出しエレクトロニクスのノイズ状況を調べ、分解能に影響がないことを確かめる必要がある。また、光センサーの性能をモニターする測定を確立し、長期間のデータ取得を行うことのできる環境を整える。陽電子検出器が準備できれば陽電子とガンマ線の両方の測定を組み合わせ、μ→eγ崩壊探索のためのトリガーを準備する。このトリガーには同時刻・同エネルギーで逆方向に生成する陽電子とガンマ線をオンラインで選択することが求められ、ガンマ線の時間・エネルギー・ヒット位置の測定を通して開発に貢献する。 検出器の分解能はこれまで検出器中央部分のみで測定されてきたが、検出器全体で十分な分解能が得られているかを測定する必要がある。これを測定する上ではパイ粒子の荷電交換反応を用いる手法が最も強力であり、2020年の測定を通して得られた経験をもとに時間・エネルギー分解能の位置依存性を測定することを計画している。
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Research Products
(6 results)