2019 Fiscal Year Annual Research Report
紫外円偏光二色性によるタンパク質構造のフェムト秒時間分解観察
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19J21800
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
中山 智仁 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | タンパク質 / 二次構造 / 円偏光二色性 / 超高速分光 / 深紫外パルス光 / カーボンナノチューブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究代表者はこれまでに、カーボンナノチューブ(CNT)をプローブとしてタンパク質の物性解析を進めてきた。2019年度においてはまず、これに継続してCNT-タンパク質複合体フィルムを作成することで、タンパク質の表面電荷に応じたCNTの電子特性に変調が見られることを発見した。これはCNTがタンパク質の電子状態を探索する有用なプローブであることを示唆している。一方で、タンパク質はCNTの電子特性を制御可能な物質であると言い換えることができる。タンパク質はこの他にも様々な用途が提案されており、タンパク質に関して得られる科学的な知見は、学術界のみならず、産業界においても常に注目されてきた。 そこで本採択課題では、そんなタンパク質の光誘起される超高速な二次構造の変化を直接観察可能な時間分解紫外円偏光二色性分光装置(FUV-TRCD)の開発を第一の目標とした。さらに、実際にFUV-TRCDを用いて超高速なタンパク質二次構造の変化を明らかにすることを最終的な目標としている。2019年度はFUV-TRCD開発に向けて、基盤となる可視光域における定常的な円偏光二色性分光装置の構築を目指した。そのためにFUV-TRCDへの転用も考慮した光学系を設計し、グラントムトン(GT)プリズムなどの必要な光学素子を調達後、それらを用いてハロゲンランプを光源とした円偏光二色性分光装置を構築した。 この構築した測定装置の評価は、(6,5)および(8,6)CNTの光学異性体(エナンチオーマー)を用いた。結果として、(6,5)CNT、(8,6)CNTとも定常的なCDスペクトルを得ることに成功した。得られたCDスペクトルは日本分光社製の円偏光二色性分光装置を用いたCDスペクトルと比較してよく一致していることを確認した。これにより、当初予定していた定常的な分光装置の構築には至ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先述の概要の通り、これまでの研究に継続した一定の研究成果及び、当初予定していた本採択課題の初期段階である、可視域の定常的な円偏光二色性(CD)分光装置の構築には成功した。また、2019年度の終盤に実施を予定していた、CD分光装置に時間分解能を付与する超短パルスレーザーおよび光パラメトリック増幅器(OPA)の導入については、超短パルスレーザーおよびOPAともに不調をきたし、使用可能状態に復帰するために1ヶ月を要したため、若干の遅れが生じている。しかし、現在は既に超短パルスレーザー、OPA共に通常の状態に復帰している。従って、超短パルスレーザーとOPAの不調による極めて軽微な計画遂行の遅れはあるものの、既にこの問題は解決し、現在では、必要な装置の構築を順調に進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、2019年度1-3月期に予定していた、定常的な円偏光二色性(CD)分光装置に超短パルス光を導入することで時間分解能を付与する研究計画に軽微な遅れが生じた。これは、超短パルスレーザー光源と光パラメトリック増幅器(OPA)の不調によるものである。しかし、既にこれらの問題は解決し、本来の研究計画に沿った研究活動を推進している。2020年度においてはまず、時間分解能を付与したCD装置の構築を行う。これにより実現した時間分解CD分光装置を用いて、当初の計画通り、カーボンナノチューブ(CNT)を用いた測定を実施する。その後、2020年度後半においては、光感受性タンパク質の構造変化の観察を試みる。
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