2019 Fiscal Year Annual Research Report
ウシ難治性疾病における免疫抑制機序の解明および新規制御法の開発
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19J21826
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐治木 大和 北海道大学, 国際感染症学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | PGE2 / PD-L1 / 牛白血病 / COX-2阻害剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまで、ウシ難治性疾病である牛白血病およびヨーネ病の病態進行にPGE2の免疫抑制能が関与していることを示した。また、PGE2の産生を阻害するCOX-2阻害剤がin vitroにおいて両疾病特異的な免疫応答を活性化することを示した。 本年度は、これらの結果をもとに、牛白血病ウイルス (BLV) 感染牛を用いてCOX-2阻害剤の治療効果を評価する臨床応用試験を行った。BLV感染牛 (n = 3) に対してCOX-2阻害剤を1週間間隔で5回もしくは9回投与した。投与後、末梢血単核球におけるIFN-γの遺伝子発現量が上昇し、3ヶ月の試験期間を通してBLVプロウイルス量が有意に減少した。以上より、COX-2阻害剤が抗ウイルス効果を示すことが世界で初めて示された。 また、我々の先行研究においてCOX-2阻害剤と抗PD-L1抗体を併用することによって、BLV特異的な免疫応答が増強されることを示した。これらの結果をもとに、BLV感染牛を用いてin vivoにおける併用法の治療効果の評価を行った。BLV感染牛 (n = 2) に対して抗PD-L1抗体を投与するとともに、そのうち1頭にはCOX-2阻害剤を併用投与した。抗体は抗ウシPD-L1ウシラットキメラ抗体を用いた。その結果、抗PD-L1抗体単剤ではBLVプロウイルス量の変化が見られなかったのに対して、COX-2阻害剤と併用することでBLVプロウイルス量が劇的に減少した (最大80%)。以上のことより、COX-2阻害剤と抗PD-L1抗体の併用法がBLV感染症に対する新規治療法になりうることが示唆された。今後は、試験頭数を増やすとともに、他のウシ慢性感染症に対する治療効果の評価を行い、併用法の治療効果を慎重に検討していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
採用第1年度目である本年は、牛白血病ウイルス感染牛を使用したin vivoでのCOX-2阻害剤単剤および抗PD-L1抗体との併用法の機能解析を中心に研究を進めた。牛白血病ウイルス感染牛を用いた臨床応用試験を行い、解析を進めているPGE2を標的とする治療戦略 (COX-2阻害剤単剤および抗PD-L1抗体との併用法) が治療効果を示すことが明らかになった。特にCOX-2阻害剤と抗PD-L1抗体を併用することで、牛白血病ウイルス感染牛のプロウイルス量が劇的に減少したことから、牛白血病ウイルス感染症に対する新規治療戦略としての応用が期待される。これらの研究成果はThe Journal of Immunology誌に発表した。また、The 12th International Veterinary Immunology Symposiumにおいて口頭発表し、Veterinary Immunology Committee of the International Union of Immunological Societies IUIS-VIC Travel Awardを受賞した。さらに、農林水産省の2019年農業技術10大ニュースに選出された。 これらの成果に加えて、「妊娠・分娩におけるPGE2の細胞性免疫抑制能の解析」等様々な解析も行った。ウシの分娩誘導に重要な生理活性物質であるPGE2が、分娩時の細胞性免疫抑制に関与していることを牛白血病ウイルス感染妊娠牛を用いて証明した。この研究成果をはじめとして現在2本の論文投稿中である。 以上より、申請時の計画以上の進展がみられており、今後も継続して研究を続けることで牛難治性疾病に対する新規制御法の樹立を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
我々の研究において、抗PD-L1抗体とCOX-2阻害剤を併用することによって、牛白血病ウイルス感染牛に対して強力な治療効果を示すことが明らかになった。臨床応用試験に用いる感染牛の数をさらに増やして効果を詳細に検討していく予定である。また、牛白血病以外の難治性疾病 (ヨーネ病およびマイコプラズマ症) に罹患しているウシを用いて疾病横断的な治療効果の解析を行っていきたい。 さらに、今後は併用によって効果が増強されたメカニズムの解明を行う予定である。今後は、抗PD-L1抗体単剤を投与した感染牛およびCOX-2阻害剤と併用投与した感染牛のサンプルの解析を行う予定である。両群において違いが見られた場合は、その点に着目して詳細なメカニズムの解析を行う予定である。
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Research Products
(7 results)