2019 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡開放系におけるトポロジカル相を記述する基礎理論の構築
Project/Area Number |
19J21927
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川畑 幸平 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 非平衡 / トポロジカル / 非エルミート |
Outline of Annual Research Achievements |
非エルミートなハミルトニアンによって有効的に記述される非平衡開放系について、対称性とトポロジーにかんする基礎理論を構築した。まず、非エルミート性によって対称性が統合および分岐し、エルミート系(孤立平衡系)において 10 通りあった最も基本的な対称性クラスが 38 通りに変化することを明らかにした。また、スペクトルが複素になることにともなって、2種類の異なる複素エネルギーギャップが定義され、それゆえにトポロジカル相が多様化することを見出した。そして、これらの非エルミート物理における基礎概念をもとにして、すべての非エルミートなトポロジカル絶縁体・超伝導体の分類理論を構築した。この分類理論は、基礎物理の観点から重要であるのにとどまらず、あたらしい機能を有するトポロジカルレーザーや散逸環境下でのトポロジカル量子計算を記述するなどという点で、応用面での重要性も期待される。 また、非エルミートなトポロジカル半金属の分類理論も構築した。非エルミート系においては、エルミート系には対応物をもたない例外点と呼ばれる縮退点が現れ、多彩な物理現象を導くことが知られている。今回の研究で導入された2種類の複素エネルギーギャップをもとにして、例外点の包括的な分類を実行した。分類理論の応用例として、トポロジカルダンベルと呼ばれるべき3次元におけるあたらしいノード構造を予言した。 さらに、非エルミート系に固有のトポロジカル不変量の存在は、表皮効果を導くことも明らかにした。このことは、バルクのトポロジカル不変量がエッジ状態の存在を導くこと(バルク・エッジ対応)と対照的であり、表皮効果を非エルミート系に固有の非平衡トポロジカル現象と同定する。また、この知見をもとにして、相反性によって守られたあたらしい表皮効果を予言した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
近年、トポロジーによって特徴付けられる物理に大きな関心が集まっている。トポロジカル相の理論および実験は大きな成功を収めてきたが、これまで孤立平衡系に研究の対象が制限されてきた。本研究課題の目的は、孤立平衡系を中心とした従来のトポロジカル相の理論をこえて、エネルギーや粒子の流入・散逸をともなう非平衡開放系で現れるトポロジカル相にかんする包括的な基礎理論を構築することである。 その意味で、令和元年度に取り組んだ、非エルミート物理における対称性とトポロジーにかんする一般理論は、非平衡トポロジカル相を記述する包括的な基礎理論であり、本研究課題において目指したもののひとつである。この基礎理論は、物性物理や原子物理、さらには光学まで、幅広い研究分野で恒久的な価値をもつことが期待され、今後のさらなる研究を促すものである。 また、バルク・エッジ対応は、従来のトポロジカル相の理論において最も重要な原則のひとつであるが、非エルミート系に固有のトポロジーがバルク・エッジ対応ではなく表皮効果をもたらすことは、非平衡トポロジカル相の理論においてあたらしい原則を発見し、確立するものである。このことはまた、あたらしい非平衡トポロジカル現象を開拓していくうえでも重要であり、さらなる研究が望まれる。 上記の研究にくわえて、非エルミートなハミルトニアンによって有効的に記述される非平衡開放系における、多体局在や動的な量子相転移についても研究を行った。 以上を踏まえて、当初の計画以上に進展していると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和元年度においては、おもに乱れのない並進対称な非エルミート系を中心に研究してきたが、乱れがある非平衡開放系についても研究を進める。この研究をつうじて、非平衡環境下での乱れと Anderson 局在の普遍性について解明する。とくに、非エルミート系における局在(Anderson)転移の一般理論を構築することを目指す。 また、令和元年度の研究で明らかにした、表皮効果と非エルミートトポロジーの関係を踏まえて、あたらしい非平衡トポロジカル現象を探究する。
|
Research Products
(14 results)