2020 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡開放系におけるトポロジカル相を記述する基礎理論の構築
Project/Area Number |
19J21927
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川畑 幸平 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 非平衡 / トポロジカル / 非エルミート |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度の研究で、非エルミート物理における対称性とトポロジーを記述する理論的枠組みの構築に成功した。とくに、非エルミートなトポロジカル相を内部対称性にもとづいて包括的に分類する一般理論を構築した。これらの結果をもとにして、令和2年度は、非平衡開放系における空間対称性の役割について研究した。とくに、回転対称な非エルミートな2次元系で、あたらしいトポロジカル結晶相とそれにともなう局在現象を発見し、高次表皮効果と名付けた。非平衡開放系における空間対称性の役割は、これまでほとんど理解されておらず、本研究結果は、その理解を導き、あたらしい研究を切り開くものである。また、本研究で理論的に提案された高次表皮効果は、スペイン・フランスのグループによるアクティブ粒子の実験 [L. S. Palacios et al., Nat. Commun. 12, 4691 (2021)]、ならびに中国のグループによる音響媒質の実験 [X. Zhang et al., Nat. Commun. 12, 5377 (2021)] において検証され、新しい動的制御の指針を与えるものとして、実用的な応用も期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
近年、トポロジーによって特徴付けられる物理に大きな関心が集まっている。トポロジカル相の理論および実験は大きな成功を収めてきたが、これまで孤立平衡系に研究の対象が制限されてきた。本研究課題の目的は、孤立平衡系を中心とした従来のトポロジカル相の理論をこえて、エネルギーや粒子の流入・散逸をともなう非平衡開放系で現れるトポロジカル相にかんする包括的な基礎理論を構築することである。 令和2年度に得られた研究成果は、これまで研究されてこなかった、非平衡開放系における空間対称性の役割に新しい理解を与えるものである。非平衡開放系におけるトポロジカル結晶相のあたらしい特徴付けを行っただけではなく、高次表皮効果とあらたに名付けた非平衡トポロジカル現象も見出し、実験で実現可能なかたちで具体的な理論提案を行った。実際に、スペイン・フランスのグループによるアクティブ粒子の実験、ならびに中国のグループによる音響媒質の実験において検証され、新しい動的制御の指針を与えるものとして、実用的な応用も期待される(前述)。 上記の研究にくわえて、非エルミート系を記述する非 Bloch バンド理論の研究、非エルミートなランダム行列理論とその量子開放系への応用についての研究、ならびに非エルミートな量子多体系における量子相転移についての研究も行った。 以上を踏まえて、当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、おもに乱れがなく、かつ多体相互作用を含まない非エルミート系を中心に研究してきたが、乱れや多体相互作用を含む非平衡開放系についても研究を進める。この研究をつうじて、非平衡環境下での乱れと Anderson 局在の普遍性について解明し、非エルミート系における局在 (Anderson) 転移の一般理論を構築することを目指す。また、非エルミート系を普遍的なかたちで記述する場の理論を構築し、それを踏まえてあたらしい非平衡トポロジカル現象を探究する。
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