2019 Fiscal Year Annual Research Report
PZTナノロッドの分極のソフト化による巨大圧電応答の実現と非鉛材料への展開
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19J21955
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
岡本 一輝 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 強誘電体 / 圧電体 / ナノ構造 / サイズ効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、強誘電体ナノロッドにおいて脱分極電界による分極のソフト化を用いた巨大圧電応答の発現メカニズムの実証を目的とする。 1年目では、脱分極電界によりもたらされる分極のソフト化について実証の第一歩として、パルスレーザー堆積法(PLD)を用いた強誘電体チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3,PZT)ナノロッドの作製に必要なターゲットの組成の検討を行った。これまでの研究では、PLDでPZTナノロッドが自己組織化成長することが明らかになっている。一方でその作製条件が成長したナノロッドの電気的特性や分極-電界(P-E)ヒステリシスループに及ぼす影響については議論されていなかった。その調査の結果、特にターゲット中の鉛の割合を増やすことで電気的特性及び分極値が大きくなることが示された。 また、ランダウ理論に基づくフェーズフィールドシミュレーションのPZTナノロッドのモデル構築に取り組んでいる。フェーズフィールドシミュレーションを用いることで、マルチドメインを考慮することができ、より現実的な系をシミュレーションできる。これにより理論的なアプローチによる脱分極電界による分極回転の容易化のメカニズムの解明を目指す。現在、計算ソフトウェアMathematicaと有限要素法計算ソフトウェアCOMSOLを用いて、この計算に必要な方程式の導出及びそれを用いた計算を試行している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までの進捗状況の自己点検による評価は、やや遅れている。である。 理由としては、①薄膜作製装置の不調と②ナノロッド試料の特性が期待通りでなかったことである。 ①薄膜作製装置の不調:本研究ではパルスレーザー堆積法で、通常薄膜作製で用いられる圧力100mTorr程度より一桁大きい2Torrにて成膜を行っている。この条件は、通常の圧力での使用に比べ、圧力調整機構に大きく負荷がかかりうる。そのためか、使用している装置の圧力調整弁がこの圧力を維持できなくなった。業者の協力を仰ぎ、この解決にあたったが、原因が特定できず、2,3カ月成膜出来ない状況であった。このため成膜の進捗に大きな後れが生じた。現在はこの問題は解決し、成膜可能な状態である。 ②ナノロッド試料の特性が期待通りでない:PZTナノロッドはナノロッドという形状から基板拘束の影響がほとんどなくなり、基板拘束の無いバルク材料と同じ特性を示すことが期待される。しかし、作製した試料はバルク単結晶の半分程度の分極値を示し、期待通りでなかった。材料中の元素の内、鉛は高い揮発性を有しており、組成ずれを引き起こすことが知られている。そのため、パルスレーザー堆積法による作製条件のうちターゲットに含まれる鉛の組成割合を増やすことで改善に取り組んだ。結果としてその鉛の組成割合を増やすことで分極値が大きくなり、バルク単結晶の値に近づくことが明らかになった。この知見を活かして来年度以降は研究を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の2020年度の実施計画は以下のとおりである。①Pb(Zr,Ti)O3(PZT)ナノロッドを用いて、脱分極電界によりもたらされる分極回転の容易化について実証を行う。脱分極電界を電荷遮蔽の観点から制御し、圧電応答へ及ぼす影響を解明する。②異なる晶系や配向でも、脱分極電界により分極回転の容易化が起こることを検証する。 これらを遂行するための今後の推進方策は以下のとおりである。①異なるアプローチによるナノロッド作製方法を取り入れること。②理論計算による脱分極電界がもたらす影響を検討すること。 昨年度は試料作製・その特性評価における問題から研究実施に後れが生じた。今年度、より迅速に研究を進めるため、異なる試料作製方法である集束イオンビーム加工を用いたトップダウン的試料作製方法を取り入れる。これによりパルスレーザー堆積法による試料作製が出来なくなっても研究を進めることが出来る。この試料作製方法はすでに昨年度試行しており、40nm幅のナノロッドを作製できることを確認した。したがって実施に問題はない。 また、理論計算によるアプローチを取り入れることで、適切な実験条件の設定や実験結果の考察を円滑に進める。この理論計算はチェコ科学アカデミーのDr.Yudinと共同で行っており、実施に問題はない。
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Research Products
(2 results)