2020 Fiscal Year Annual Research Report
標高適応と季節的可塑性における葉の温度適応メカニズムの解明
Project/Area Number |
19J22000
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
湯本 原樹 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 季節的な表現型可塑性 / 葉寿命 / 標高適応 / 低温耐性 / 生活史 / RNA-seq / 転流 / 老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
展葉スケジュールとそれに応じた葉のストレス耐性の付与は植物の成長を決定する主要因である。生育環境の温度差に応じて、葉の形質に標高勾配に沿った遺伝的分化が見られることがある。一方、季節環境の中では、夏と冬との温度差に応じて葉の性質が可塑的に変化する。本研究では常緑性草本ハクサンハタザオの葉の標高適応と季節的可塑性を対象に以下の3つの項目で研究を行う。1.標高適応の基盤となるゲノム領域を明らかにする。2. 葉の季節的可塑性の詳細を明らかにするとともにその分子メカニズムを明らかにする。3. 遺伝的同化(表現型可塑性で表れる特定の表現型が遺伝的に固定される過程)の有無を検証する。2020年度は、項目1に関して2つの研究を行った。(1)標高生態型を共通条件下で栽培し、低温馴化と脱順化の過程で発現遺伝子および凍結耐性の変化を明らかにした。(2) 高標高型と低標高型のハクサンハタザオを交雑させ後代分離集団F2の種子を2000個得た。項目2に関して、これまで葉寿命と葉の枯死の決定要因が季節依存的に変化することを示してきた。そこで、2年目は6つの操作実験を行い葉寿命の決定要因を明らかにした。その結果、秋から冬に展開する葉は繁殖期に一斉枯死するが、繁殖器官を切除することで一斉枯死が阻害され、葉寿命が延長される。また、春から夏に展開する葉は展開した順に枯死が起こる。ハクサンハタザオはロゼット植物であり、葉は展開順に相対的に植物体の下部に位置するため、自己被陰により光合成効率が低下することが想定される。そこで、自己被陰を操作することで葉寿命が変化することを示した。その他に新葉切除や一斉枯死を示す葉の自己被陰度を操作や施肥、ロゼット葉切除の操作も行っている。また、一斉枯死と順次枯死を示す葉は日長により作り分けられていることも明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度はコロナ禍により予定通り、伊吹山をはじめとするハクサンハタザオの生育する山に行くことができず、種子の採取を失敗し、限られた種子数で実験を行ったため、進捗が遅れた。 同様に生化学分析を行うためには共同研究が必要であるが、自粛により行うことができなかった。生化学分析による分析を後回しにし、操作実験を行うことで生態的意義の解明を進めるように舵をきり、一定の成果をえた。
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Strategy for Future Research Activity |
l2020年度はコロナ禍により予定通り標高適応の研究を進めることができなかった。2021年度は、作成した高標高型と低標高型のハクサンハタザオを交雑させ後代分離集団F2を年間通して共通圃場実験を行うことで標高分化形質(低温耐性や撥水性)の原因遺伝子領域を明らかにする。 また、現在、進捗が遅れている生化学分析や顕微鏡観察を行うことで、遺伝子発現の差異がどのような表現型の差異をもたらすかを比較し明らかにする。
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