2019 Fiscal Year Annual Research Report
視覚的経験の言語化に関する研究-感覚の言語的伝達メカニズムの解明に向けて-
Project/Area Number |
19J22002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三田 寛真 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 色彩表現 / 色彩語彙 / 記号的特性 / 構文と比喩 / 視覚表象 / 描出 / 意味と知覚のインターフェイス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、色彩語彙に代表される視覚関連表現について、実例の調査と分析に取り組み、その理論的成果として(1)色彩語彙の意味生成の構文論的説明、(2)色彩の表現化に援用される隣接概念の同定、(3)描出表現の体系の全体像の提示、(4)語彙意味と知覚表象の接続メカニズムの仮説的提案、の4つを得た。 (1)では、色彩語彙が修飾部や述部となる際に取る形態統語的分布を決める、語用論的・記号論的条件を示し、それが色彩語彙の比喩的な意味の生成も動機づけることを明らかにした。こうした比喩用法は、従来、当該の色彩や色名の心理学的、文化的側面から発生を論じられることが多く、言語内的な仕組みに基づく説明を与えた点に新規性がある。 (2)では、明るさや鮮やかさなどの色彩の詳細な特徴が表現される際に持ち出される、他の知覚的・空間的・抽象的概念を実例から同定し、それぞれどのような機序によるものかを意味論的に示した。これは、色彩概念と他の意味概念とが言語のレベルでどのように関係づけられるかを見るもので、共感覚表現研究などへの貢献としての意義もある。 (3)では、色彩の言語化において、色相(色彩的特徴)の描出と配色(色の空間的配置)の描出とが異なる表現方略として分けられることを、実例の質的分析と作例を用いた検証によって論じた。色彩と色名との限定的な関係ではなく、視覚表象と結びつく表現の総体のなかに色彩表現を位置づけ、本研究が目指す、ことばによる描出の言語学的理論化のための見取り図を得た。 (4)では、名詞の意味構造に、物体の知覚表象を規定する情報がどのように組み込まれているかを示すモデルを、物体名で色彩を指し示す表現(「レモン色」の類)などを根拠として考察した。語に内在・付随する知識構造を記述できる既存の諸理論を部分的に改良し、語彙意味と知覚表象との接続の仕組みを仮説的に提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究は(1)複合的色彩表現の記述分析、(2)色彩以外の視覚関連表現の生起文脈データの類型化、(3)視覚的情報の伝達プロセスの実験調査、を具体的作業として設定していた。このうち(3)について、当初の実施計画では、画像情報の伝達タスクを用いた実験調査の予備テストを年度内に行う予定であったが、主に二つの理由から実施を次年度に持ち越さざるを得なかった。第一には、実例調査・分析から得られた成果によって理論面での進展があり、それを実験の設計に反映させるための検討作業が生じたため、第二には、年度末からの感染症の大規模な流行によって、対面での接触を伴う当該実験の実施が安全確保上困難であったため、である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方策としては、(1)コーパスに基づく実例データの収集・分析を引き続き拡張させつつ、特にすみやかに行うべきは(2)成果物のとりまとめと(3)実験調査の再計画であると考えている。 (1)について、本年度に取り組んだ作業の過程で、新たに見るべき観点や現象、あるいは、直接の関連性が見いだされず取り除くべき観点や現象が、どちらも生じているため、データの収集・分析は引き続き行う。 (2)について、本年度の研究作業で得られたデータや理論的帰結は、既にいくつかの学会等で発表を行った。次段階として、そこでの議論の進展を踏まえて成果を精査し、論文としてとりまとめ、投稿する作業に取り掛かる。その際には、隣接・関連現象を取り扱った研究との接続のため、文献の読み込みも作業として発生する。 (3)について、本年度に実施できず、遅れが生じてしまった実験調査については、その理由となった事情が解消されていないため、オンライン形式などの代替手段によるパイロット実験の実施を検討する。内容の性質上、そうした形での実施も十分可能ではあるが、それによって実験刺激・環境の準備や分析手法の精査、倫理審査などのプロセスにある程度の変更が生じることが予想される。
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