2019 Fiscal Year Annual Research Report
Analysis of non-equilibrium dynamics using dynamic mode decomposition
Project/Area Number |
19J22017
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂田 逸志 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 機械学習 / 動的モード分解 / ベイズ推論 / 非平衡 / 時系列データ / 計測データ / 緩和過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
物理学における計測データの中でも特に非平衡現象を対象に背後のモデルを効率的に抽出する数理的手法の開発を目指して研究に取り組んでいる.本年度は非平衡現象の典型的な例としてコヒーレントフォノンを対象に実験データの解析を行った.先行研究で問題となっていたトレンド下でのノイズの影響を動的モード分解という手法を拡張することで評価し,物性を決める基準モードの自動抽出に成功した.具体的にはビスマスのコヒーレントフォノン信号を対象に信号に含まれる結晶格子対称性に由来する2つの基準モードを計測信号から自動的に抽出することに成功した.また,手法の拡張としてはモード分解手法である動的モード分解にBayesian LARS-OLSを導入した新たなベイズ推論の枠組みを導入した.動的モード分解によって抽出されたモードから物理的に妥当なモードを選択する,モード選択の過程を確率モデルとして定式化し事後分布を調べることで選択されたモードの組の良し悪しを評価した.人工データ,実験計測データでの検証によって,提案手法が激しいトレンド下でも基準モードの選択が可能でノイズに頑強であることがわかった.この手法の拡張によってトレンドを持ったバックグラウンドのノイズを考慮することが可能になり,モード分解解析が扱えるデータの範囲が広がった.研究と並行して学会発表や論文執筆についても計画的に進めている.結果として,1件の海外学会における発表を行った.また1本の査読有り英文学会誌への投稿に採択された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は緩和現象に代表されるような,物理学における非平衡ダイナミクスを時系列データから効率的に抽出する数理的枠組みの開発を目指すものである.時系列データから背後の構造を抽出するためには,その構造に数理的な仮定が必要である.特に対象が減衰振動の線形和で記述できると仮定して時系列データから特徴を抽出する動的モード分解( Dynamic Mode Decomposition (DMD) )に着目し,手法を拡張していく. 今年度は非平衡現象の中で最も基本的な緩和現象の典型的な例である,コヒーレントフォノンの実験データを対象に研究を行った.コヒーレントフォノンは結晶格子の物理的な構造を調べることに用いられ,フォノン信号の固有振動は結晶構造を特徴づける.先行研究では動的モード分解によって固有振動を信号のみから抽出することに成功したが,定常状態での観測ノイズしか考慮されていなかったという問題が存在していた. 本年度はこの問題を解決するために動的モード分解にスパースモデリングを導入したスパース動的モード分解にベイズ推論を導入し,トレンド下でのノイズの効果とモードの組み合わせを確率モデルとして手法に取り入れた.計算コストの問題を回避するためにBayesian LARS-OLSと呼ばれる手法によってベイズ推論を取り入れた動的モード分解のための新たなベイズによるフレームワークを構築した.このフレームワークによって,先行研究では抽出失敗していたトレンドの大きい実験データでも固有振動モードを抽出可能であり,先行研究の手法と比較してノイズに対して頑強であることがわかった.研究成果として1本の査読有り英文学会誌への投稿に採択された.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方策として,緩和を表現可能な動的モード分解の応用を進めていく.1つはコヒーレントフォノンに更に焦点を当てて,未知の現象に対する解析を進める.コヒーレントフォノンは超高速現象を観測するためにも用いられており,プラズモンとよばれる自由電子の集団運動とフォノンの相互作用が近年注目されている.この現象は理論面で盛んに研究が進められている非エルミートハミルトニアン系として記述できることが知られている.非エルミートハミルトニアンは固有値が複素数で現れることが特徴であり,信号としては減衰振動として得られる.従来のフーリエ解析では減衰振動を取り扱うことが難しく,固有値を推定することができなかった.この現象に減衰振動に分解可能な動的モード分解を適用し複素固有値を直接推定することを試み,主要ピークを抽出し,各モードに当てはめてプロットしたところ非エルミートハミルトニアンから計算された理論線を再現することを確認する.また,従来のフーリエ解析では取り扱えなかった初期位相や振動振幅も推定して理論との比較を進めていく.また,動的モード分解はダイナミクスに応じた空間的な情報も得ることができる点に着目して,時系列データから分子構造のような空間的な構造の抽出にも取り組んでいく.
|
Research Products
(2 results)