2019 Fiscal Year Annual Research Report
職場における「振舞のコード」の解明:雑誌言説に表れる対人関係の技法に着目して
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19J22028
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
谷原 吏 慶應義塾大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | メディア史 / サラリーマン / 雑誌 / 映画 / 大衆文化 / 労働社会学 / 経営史 |
Outline of Annual Research Achievements |
「サラリーマンのメディア史」をテーマに研究を行っている。具体的には次の通り。 ① サラリーマンが接してきた雑誌メディアに着目し、彼らがどのような情報や知を求めていたのか、その背後にはいかなる力学があったのかを明らかにした。具体的には、戦前や高度経済成長期におけるサラリーマン向け雑誌は教養主義的な色彩が濃かったが、1980年に創刊された月刊誌『BIG tomorrow』を契機として変容し、処世術に代表される「即物的な知」の提供に移行した。この研究の成果は、「日本マス・コミュニケーション学会2019年度秋季研究発表会」(2019年10月)で報告し、同学会のジャーナル『マス・コミュニケーション研究』第97号に論文として掲載される。 ② 戦前における青年の上昇アスピレーションを支えた「立身出世主義」の研究(竹内 2005)を土台として、現代のサラリーマンを支えるアスピレーションについて研究を行った。具体的には、サラリーマン向け雑誌『BIG tomorrow』及び『プレジデント』を資料としてメディア論的研究を行い、サラリーマンのアスピレーションが、「立身出世主義」の背後にあった「修養主義」から、心理学知を用いたビジネススキル(心理主義)に変容したことを明らかにした。この研究の成果は「第92回日本社会学会大会」(2019年10月)で報告し、『年報社会学論集』第33号(関東社会学会)に論文として掲載される。 ③ 1950年代から60年代にかけて流行した東宝サラリーマン映画に着目し、作品群をめぐる社会的コミュニケーション(送り手の意図及び受容態様)を調査した。その結果、50年代から60年代にかけて、職場の人間関係に関する規範の趨勢は「家族主義」から「能力主義」へと移行していったことが明らかになった。この研究の成果は、『三田社会学』第25号(三田社会学会)に論文として掲載される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画全体としては、「サラリーマン」という社会的主体をめぐるメディアの歴史を構想している。2019年度は、戦後編の研究がほぼ完了したため、研究はおおむね順調に進展しているといえる。具体的には、サラリーマンを表象した映画及び、サラリーマンを対象読者とした雑誌を一次資料として調査研究することにより、サラリーマンはどのようなイメージで把握されたのか、あるいは彼らはどのような情報や知をメディアに求めたのか、そしてその背後にはいかなる力学があったのかということを明らかにした。研究の成果は、2本の査読論文として掲載が決定しており、1本は現在査読中である。また、それぞれの論文内容に関しては学会発表も行っている(詳細は「研究実績の概要」を参照)。なお、調査研究に使用した史資料は、国立国会図書館(東京本館)にて複写・収集を行った。 本年度の研究により、①家族主義から能力主義へ、②修養主義から心理主義へ、③エリートから大衆へ、という、「サラリーマンのメディア史」を把握するための視点を獲得しており、今後、戦前編や日米比較を行う際の有用な分析枠組が準備できている。また、戦前編の研究を展開するための史資料については、既に国会図書館で複写・収集を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、①戦前におけるメディアの研究及び、②米国におけるホワイトカラーを取り巻くメディアの研究という二点を柱とする。 ①に関しては、「サラリーマン」という主体が認識され始めた大正から昭和初期を中心に調査を行う。具体的には、当時のサラリーマン向け雑誌や、婦人雑誌における家計に関する記事、あるいはサラリーマンを扱った映画等を調査し、当時のサラリーマンの生活状況や、彼らをめぐる社会規範を明らかにする。特に、大正期に花開いたといわれる消費文化との関連から、その担い手となったサラリーマンの社会的位置価に注目したいと考えている。扱う雑誌としては、当時のサラリーマン向けの経済評論誌『サラリーマン』(サラリーマン社)及び、中流階級の家庭向けに発行されていた『婦人の友』(婦人之友社)を中心とすることを計画している。また、昭和恐慌時に人気を博した小津安二郎監督によるサラリーマン映画の送り手/受け手分析も補足的に行う予定である。これらに関する資料は、国立国会図書館で複写を行う。 ②に関しては、歴史と影響力のある米国のビジネス雑誌『FORTUNE』(1930~)及び『Harvard Business Review』(1922~)を主たる調査対象資料とする。現代日本のビジネス雑誌で主流となっている心理主義的なビジネススキルに関する言説は、明らかに米国の影響を受けている(牧野 2012)ため、そのルーツを探究する目的で調査を行う。米国議会図書館に出張し、前述のビジネス雑誌の内容だけでなく、送り手たる編集者の言説や、受け手たる読者や批評家の言説等に関する資料を収集・分析する。以上の作業を通して、ビジネス雑誌が米国で果たした役割やその社会的位置価を明らかにすることにより、日本との比較を行う。 ※新型コロナウイルス感染症の拡大により渡米が制約され、②に関しては計画変更の可能性がある。
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Research Products
(6 results)