2020 Fiscal Year Annual Research Report
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19J22055
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 一輝 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 原子核 / ハドロン / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
実験データを再現するためのGeant4シミュレータを構築した。今回の実験では水素標的と三重水素の二種類を用いた。 まずは、水素標的によって生じるΛ粒子とΣ粒子の質量スペクトラムの再現を試みた。この際、ピーク位置と質量分解能を再現することは出来たが、実験データに見られるピークの高質量領域に見られるテール部分を再現することが出来なかった。このテール部分は電子の制動放射に起因すると考えられるため、電子の軌道上に存在する標的セルや空気、真空膜を正確にシミュレータに組み込むことでテール部分の成分を実験データに近づけることが出来た。しかし、これのみでは不十分であったため、内部制動放射をさらに追加した。電子ビームを用いた本実験においては、仮想光子は一つしか生成されないという仮定を用いているが、これに対する補正を内部制動放射として取り込んでいる。これを導入したことにより、ピークの高質量領域のテール部分を再現することに成功した。 このシミュレータを用いて、さらに三重水素標的における質量スペクトラムの再現を試みた。この際、三重水素内の陽子の準自由弾性散乱により生成されるΛ粒子の寄与が重要になる。陽子は原子核内に束縛されているため、水素標的の場合と異なり、フェルミ運動量を持っている。これを含めてシミュレーションを行うことで、三重水素標的の質量スペクトラムを概ね再現することに成功した。一方で、Λ粒子生成閾値近傍では一致度が悪く、Λ粒子と残留中性子の終状態相互作用に起因すると考えられる。この効果を見積もるため、現在理論研究者との議論を開始しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Geant4シミュレータを用いて、実験データの欠損質量分布を再現することを試みた。特に、水素標的を用いた実験データを再現することに成功した。 シミュレータに組み込む物理情報には、素過程と標的のフェルミ分布の二つが必要である。素過程については過去の実験データを利用しており、不定性は小さいと考えられる。一方で、フェルミ分布に関しては標的によっては不定性が大きい。標的としては水素標的と三重水素標的を使用しており、特に三重水素標的はその実験データが乏しいため、ヘリウム3原子核のフェルミ分布を使用した。これを用いたところ、実験データのスペクトルを概ね再現することが出来た。 しかし、質量スペクトルの高質量テールを再現することが出来なかった。これは外部制動放射と内部制動放射に起因すると考えられる。外部制動放射は主に粒子軌道上に存在する物質によって引き起こされる。特にガス標的を封入するセルが大きな制動放射を引き起こすことが分かった。本実験では葉巻型の標的セルを使用している。粒子は前方からおよそ13.2°の角度方向に飛来していくため、本来想定されている厚さの1/sin(13.2°)~4.4倍の影響を及ぼしてしまう。しかし、この効果だけでは制動放射を再現することが出来なかったため、内部制動放射を追加で取り入れた。これは仮想光子実験に由来する効果である。電子ビームを用いた本研究においては、仮想光子は一つしか生成されないという仮定を用いているが、これに対する制動放射部分の補正を内部制動放射として取り入れている。以上を取り入れたことにより質量スペクトルのテール部分を再現することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
三重水素標的を用いた実験データを再現するために、Λ粒子と中間子の終状態相互作用を取り込んだ物理モデルを構築する。現在までは簡易的に二粒子の相対運動量を元にΛ粒子生成断面積を操作する「インフルエンスファクター」を導入していたが、この方法では、以下の二点を含めていないことが明らかとなった。 1. 二中間子の同種粒子性 2. 原子核中核子のon-shell性 上記は簡単なモデルでは再現出来ず、少数多体系の性質を詳細に取り込む多体計算が必要である。従って、少数多体系の計算が出来る理論研究者と議論を行い、三重水素標的からの質量スペクトルを予想する。このスペクトルと実装済みのGeant4シミュレータから計算したアクセプタンスを組み合わせることで、本実験の質量スペクトルを再現することを目指す。これらの計算をΛ粒子と中間子との相互作用を操作しながら比較することで、Λ粒子と中間子の相互作用の強さを見積もる。 上記の結果を学術雑誌にまとめるとともに、博士の学位を取得する。
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Research Products
(2 results)