2020 Fiscal Year Annual Research Report
Cav3.2リン酸化修飾経路の同定・摂動による入眠行動の分子基盤探求
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19J22074
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
昆 一弘 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 睡眠 / リン酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
摂食や睡眠、生殖をはじめとした本能行動は、無脊椎動物からわれわれヒトに至るまで進化的に高度に保存された行動であるが、これらの行動を制御する分子・神経機構は完全には理解されていない。特にも睡眠は未だに多くの謎が残されており、医学的・社会的な見地からもその詳細な制御機構の解明が期待されている。本研究では、入眠に重要なリン酸化修飾経路を同定し、その経路を摂動した遺伝子改変マウスの作製およびその睡眠表現型解析から、特定の神経細胞種内のリン酸化修飾による分子機能制御が入眠過程に重要であるという仮説を検証する。 はじめに、特定の神経細胞種特異的に細胞を標識可能な系を導入および構築し、マウス全脳透明化・染色技術を用いることで、それらの発現パターンを全脳レベルで評価・比較した。次に、入眠に関与する細胞群を同定するために、薬理遺伝学的に特定細胞種の神経活動を摂動した際の睡眠表現型を解析し、全脳における発現パターンと比較した。その結果、神経活動を人為的に増加させると入眠が誘導される一方で、神経活動を抑制すると入眠が阻害されるといった入眠行動に必要十分である細胞群を発見した。加えて、入眠制御におけるリン酸化修飾の意義を問うために、同定した細胞群特異的に特定のキナーゼ活性を操作すると、入眠行動が変化するだけではなく、睡眠恒常性にも影響が出ることがわかった。この結果は、このキナーゼが関与するリン酸化修飾経路が入眠だけでなく睡眠制御の中核をなす重要な分子基盤である可能性を新たに提示するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度前半は研究活動の制限が強く、実験を行えない期間が続いたが、その間に神経細胞種特異的な分子摂動系を新たに考案し、実際に年度内に系を構築した。その結果、特定の神経細胞種内ではたらくキナーゼが入眠制御に重要であることを新たに発見した。さらに、このリン酸化酵素が入眠のみならず睡眠恒常性にも関与する睡眠制御の中核をなす重要な分子基盤である可能性を見出した。 また、マウス全脳解析技術を自身の睡眠研究へ応用し、薬理学的に入眠を誘導した際の神経活性を全脳レベルで解析することで入眠行動に相関して神経活性の変化する脳領域を同定した。 上記のように当研究員は、コロナ禍で当初の研究計画の変更を余儀なくされたのにもかかわらず、入眠や睡眠恒常性を制御する分子・神経基盤について重要な発見をしており、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
同定したキナーゼの標的分子をLC-MS/MSを用いて探索する。また、遺伝子改変マウス等を作製することで、得られた標的分子候補の入眠制御における役割を検証する。さらに、リン酸化修飾経路が活性化する条件を明らかにするため、生理的条件下または断眠前後におけるキナーゼ活性の時系列変化を免疫染色法等により追跡する。
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