2019 Fiscal Year Annual Research Report
上皮間葉転換におけるアミノ酸代謝とオートファジーの相互作用の解明
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19J22093
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中宿 文絵 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | がん / 上皮間葉転換 / アミノ酸代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、がん細胞におけるアミノ酸代謝が、上皮間葉転換(EMT)及びがんの転移に及ぼす影響とその関連性を解明することである。研究員らは、メタボローム解析から、TGF-βでEMTを誘導した肺がん細胞では、代謝酵素であるP4HA3の発現増加を介して、細胞内のアミノ酸濃度が減少することや、アミノ酸代謝の変化がEMT及びがんの転移に寄与する可能性を見出した。しかし、アミノ酸代謝の変化がEMTや転移に影響する分子機構は不明である。そこで、アミノ酸の減少のような代謝的ストレスで活性化される「オートファジー」に着目し、アミノ酸代謝とEMTを関連づける分子機構解明を目指す。 アミノ酸濃度の変化がEMTへ及ぼす影響を調べるため、培地中に含まれる19種類のアミノ酸をそれぞれ除去した培地で肺がん細胞を培養したところ、12条件で、EMT関連遺伝子の発現が誘導されることを見出した。このアミノ酸除去条件で、オートファジーが誘導されているか、オートファジーの指標であるLC3B-Ⅱタンパク質量をウエスタンブロットで調べた。その結果、コントロールと比べて、His, Ile, Lys, Phe, またはTrpをそれぞれ除去した培養条件で、LC3B-Ⅱの増加が確認され、オートファジーが誘導されていることが示唆された。 このオートファジーが、EMT誘導に寄与するか調べるため、オートファジー阻害がEMT関連遺伝子の発現に及ぼす影響を確認した。His, Ile, Lys, Phe,およびTrpを除去した培地に、オートファジー阻害剤を処理し、EMT関連遺伝子の発現をリアルタイムPCRで確認した。その結果、アミノ酸除去によるEMT関連遺伝子の発現変化が阻害剤処理によって抑制された。このことから、アミノ酸除去条件で誘導されるEMT様の遺伝子発現変化はオートファジーを介して誘導される可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画に従って、がん細胞におけるアミノ酸濃度の減少がオートファジーを誘導するか、また、オートファジーがEMT誘導に寄与するかについて、実験的な検証を行なった。 概要に記載した通り、アミノ酸の減少とオートファジーの関連性について調べるため、培地中のアミノ酸をそれぞれ除去した培地でヒト肺がん細胞を培養し、オートファジーのマーカーであるLC3B-Ⅱタンパク質の量をウエスタンブロットで確認した。その結果、すべてのアミノ酸を含む培地で培養した細胞と比べて、His, Ile, Lys, Phe, またはTrpをそれぞれ除去した培養条件で、LC3B-Ⅱが増加しており、オートファジーが亢進していることが示唆された。 このオートファジーが、EMTに寄与するかを明らかにするため、オートファジー阻害剤がEMT関連遺伝子の発現に及ぼす影響を調べた。培地からHis, Ile, Lys, Phe, または Trpをそれぞれ除去した条件において、オートファジー阻害剤である3-メチルアデニンまたはクロロキンを処理し、EMT関連遺伝子発現をリアルタイムPCRで確認した。その結果、オートファジー阻害剤によって、アミノ酸除去による間葉系マーカー遺伝子(CDH2及びZEB1)の発現増加と上皮細胞マーカー遺伝子(CDH1)の発現減少が抑制された。このことから、アミノ酸除去で誘導されるEMT様の遺伝子発現は、オートファジーを介して誘導される可能性が示唆された。以上について、2019年がんと代謝研究会の若手部門で口頭発表した。現在、論文執筆に取り組んでおり、計画に従って「おおむね順調に進展している」と判断した。 一方、TGF-βによるEMT誘導時のアミノ酸の減少と、オートファジーの関係性についての評価については未着手のため、今後も継続して検討を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1)アミノ酸の減少で誘導されるオートファジーがEMT誘導に寄与する分子機構及び、(2)アミノ酸代謝のin vivoにおけるがんの転移への影響、の2点を中心に、検証を行なっていく予定である。 (1)アミノ酸濃度の減少で誘導されるオートファジーがEMT誘導に寄与する分子機構について検討する。アミノ酸除去培地でがん細胞を培養すると、EMTのマスター転写因子であるZEB1遺伝子の発現が増加することから、オートファジーがZEB1の発現を制御するSmadシグナルを制御していると予想した。これを検証するため、アミノ酸を除去した条件において、Smadシグナルの活性化の指標として、Smad2/3のリン酸化量の変化についてWestern blotにて確認する。また、オートファジーがSmadシグナルを制御しているか調べるため、オートファジー阻害剤によってSmad2/3のリン酸化量に影響するかについて調べる。 (2)前年度までの解析で明らかになったアミノ酸代謝とEMTの関連性をin vivoで評価する。がんの転移は、リンパ流や血流といった転移様式や、転移先の臓器特異性など、全身が関与することから、培養細胞の解析で明らかになった現象が、生体内においても重要な役割を果たすかについては検証が必要である。マウスの生体内で、アミノ酸代謝と転移の関係について解析するため、今年度は、発がんモデルマウスの作製に取り組む。これまでに、KRAS変異を有するヒト肺がん培養細胞を解析してきたことから、ドキシサイクリン依存的に発がん性KRASを発現する発がんモデルマウスの作製を行う。
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Research Products
(2 results)