2020 Fiscal Year Annual Research Report
上皮間葉転換におけるアミノ酸代謝とオートファジーの相互作用の解明
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19J22093
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中宿 文絵 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | がん / 代謝 / アミノ酸 / 上皮間葉転換 |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮間葉転換(Epithelial-Mesenchymal-Transition:EMT)は、がん転移や抗がん剤耐性などがん悪性化に関与することが報告されている。本研究の目的は、がんEMTにおける代謝機構とその役割を明らかにすることである。これまでに、トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor:TGF)-βでEMTを誘導したヒト肺がん細胞のメタボローム解析とトランスクリプトーム解析を行った。その結果、代謝酵素遺伝子の1つであるProlyl 4-Hydroxylase Subunit Alpha 3(P4HA3)の増加を介して、アミノ酸濃度が変化することを見出した。また、P4HA3遺伝子をノックダウンした肺がん細胞のゼノグラフト実験で、転移と腫瘍増殖が抑制されたことから、P4HA3遺伝子が、EMTを介してがん悪性化に対して促進的に働くことが示唆された。そこで、本年度は、P4HA3単体の発現が、EMT誘導するかについて検討した。 P4HA3単独の発現増加がEMT誘導に十分であるか検証するため、強制発現細胞を作製した。ヒト肺がん細胞株A549およびHCC827にPiggybacベクターを用いて、ドキシサイクリン依存的にP4HA3を発現する細胞株を樹立した。ドキシサイクリンを添加し、qPCRとウエスタンブロッティングで、EMT関連遺伝子(CDH1, CDH2, FN1, MMP2, およびMMP9)の発現を調べた。その結果、両細胞において、ドキシサイクリン添加でP4HA3の発現が増加した一方で、EMT関連遺伝子の発現は変化しなかった。このことから、P4HA3はTGF-βによるEMTの代謝変化を制御するが、P4HA3単体の発現はEMT誘導に十分ではないことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TGF-βによるEMTにおいて、細胞内のアミノ酸濃度が減少したことや、アミノ酸欠乏培地中で細胞を培養すると、EMT関連遺伝子の発現が誘導されることから、EMT誘導においてアミノ酸濃度の減少が重要であることが示唆された。そこで、アミノ酸濃度を感知する機構の一つであるオートファジーがEMTと関連しているのではないかと仮説を立てた。初年時において、「アミノ酸欠乏によるオートファジーとEMTの関係」について1種類ずつのアミノ酸が欠乏した培地を作成し、オートファジーマーカーの発現について調べたところ、一部のアミノ酸欠乏条件においては、オートファジーが活性化しており、それらの条件では、オートファジー阻害剤がEMT関連遺伝子の発現に対して抑制的に作用することがわかった。しかし、いくつかのアミノ酸欠乏条件ではオートファジーの活性化はみられず、オートファジーのみがアミノ酸減少によるEMT誘導に寄与しているわけではないことが示された。そのため、研究方針を転換し、今年度は、EMTにおいてアミノ酸代謝を制御することがわかってきたP4HA3遺伝子のEMTにおける機能解析を行った。P4HA3のノックダウンがTGF-βによるEMTに対して抑制的に働くことから、P4HA3単独の強制発現がEMTを誘導しうるのかについて検討した。肺がん細胞株でP4HA3を強制発現させたところ、EMT関連遺伝子の発現に大きな影響はなかった。このことから、P4HA3単独の発現だけでは、EMT関連遺伝子の発現には影響しないことが示唆され、EMTにおける代謝酵素の役割の理解に繋がったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針として、オートファジーの活性化が観察されなかったアミノ酸欠乏条件において、EMT様の遺伝子発現パターンが誘導されるメカニズムについて検討する。オートファジー以外の細胞内のアミノ酸濃度を検知するメカニズムの一つであるGeneral Control Non- derepressible 2(GCN2)に着目する。GCN2は、アミノ酸負荷していないtRNAと結合することで活性化状態になり、eIF-2αやATF4を介して細胞内の転写状態を制御することが知られている。アミノ酸欠乏条件において、これらの経路が変化しているか、これらの因子を抑制した場合に、EMT誘導が抑制されるかを中心に実験を行う。
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Research Products
(1 results)