2020 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of novel superconducting phenomena induced by parity-breaking order and fluctuations
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19J22122
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金杉 翔太 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | エキゾチック超伝導 / 超伝導ギャップ / 対称性 / 多バンド超伝導 / 奇パリティ多極子 / FFLO超伝導 / 強誘電揺らぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、自発的に空間反転対称性を破る“奇パリティ”の秩序・揺らぎが生み出す新奇超伝導現象の探索を目的としている。前年度は強誘電秩序と共存する超伝導の研究から発展して、強誘電秩序によって奇周波数超伝導が誘起されることを示した。また、二層遷移金属ダイカルコゲナイドをモデル化した強相関電子模型を解析し、局所的なパリティの破れと臨界スピン揺らぎの協力現象によるスピン三重項超伝導のメカニズムを示した。これらの結果をまとめた論文が今年度に出版されたため、その宣伝として3件の口頭発表を行った。 今年度はさらに新しいテーマとして「(1)多バンド系におけるアナポール超伝導の理論」と「(2)強誘電揺らぎが媒介する多軌道超伝導の理論」に取り組んだ。(1)では時間・空間反転対称性を破る超伝導において、多バンド効果によって非対称な準粒子スペクトルが現れることを発見した。特にギャップ関数が極性を持った既約表現に属する場合には、超伝導状態が持つ有効的なアナポールモーメントに起因して準粒子スペクトルに一軸的な非対称性が出現し、その結果FFLO状態がゼロ磁場で安定化することを示した。また、候補物質としてUTe2を考え、圧力下で非対称準粒子スペクトルが実現している可能性を議論した。(2)では、前年度までに行ってきた「強誘電秩序と共存する超伝導」の研究を発展させ、強誘電揺らぎに媒介される超伝導の研究を行った。特に候補物質であるSrTiO3を念頭に、先行研究では無視されていた多軌道効果を取り入れた理論の構築を行った。その結果、強誘電揺らぎが非等方的なマルチギャップ構造を持つ偶パリティ超伝導状態を安定化することが分かった。なお、(1)の成果に対しては1件のポスター発表を行い、成果をまとめた論文を投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度における重要な成果は、時間・空間反転対称性を破る超伝導において非対称な準粒子スペクトルが出現する条件を解明したことである。時間・空間反転対称性の破れた超伝導体では、対称性の観点から非対称な準粒子スペクトルが許される。実際このような非対称性は例えば磁場下のRashba超伝導体において議論され、非相反応答やFFLO超伝導といったエキゾチック超伝導現象の起源となることが明らかにされてきた。しかし、外部磁場や磁気秩序に依らず、内因的に非対称な準粒子スペクトルが誘起される具体的な条件は知られていなかった。本研究では先行研究で考慮されてこなかった“多バンド性”に着目することで、時間・空間反転対称性を自発的に破る超伝導において非対称準粒子スペクトルが普遍的に出現する条件を明らかにできた。準粒子スペクトルの非対称性は非相反応答、FFLO超伝導、磁気圧電効果、光電流応答といった様々な超伝導現象の起源となることが期待できる。加えて、一般に磁場は超伝導を破壊するため、内因的に非対称な準粒子スペクトルを実現できることは上記の様々な超伝導現象を実験的に観測する上で極めて重要である。以上のことから、本研究成果はこれから様々な新しい超伝導研究に派生し、その基礎となることが期待されるものである。 また、強誘電揺らぎに媒介される超伝導に対してはいくつかの先行研究があったが、それらは簡単のために一軌道模型を用いていた。しかし、一軌道模型で強誘電揺らぎによる超伝導が実現するためには、スピン軌道相互作用が十分大きいことが要求される。本研究では新たに多軌道模型を考えることで理論の適用範囲を拡げ、候補物質であるSrTiO3のようにスピン軌道相互作用が小さい場合にも、強誘電揺らぎが媒介する引力によって超伝導が安定化することを明らかにした。以上は超伝導のメカニズムに新しい可能性を与える重要な成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度は物質に依存しない一般的な多バンド模型を用いて、空間・時間反転対称性を破る超伝導において非対称な準粒子スペクトルが出現する条件を包括的に示した。このような非対称準粒子スペクトルは磁気圧電効果、光電流応答、非相反応答など、様々な超伝導応答現象の起源となることが対称性の観点から予想できる。そこで本年度は、非対称準粒子スペクトルによって誘起される新奇応答現象の解析を行い、その詳細な性質を調査する。そして得られた結果をもとに、準粒子スペクトルの非対称性や、その帰結であるFFLO超伝導の検出に向けた新しい実験方法の提案を目指す。また、候補物質のUTe2に対して第一原理計算に基づく多バンド模型を構築し、物質に即した現実的な模型においても非対称準粒子スペクトルやFFLO超伝導が実現するかどうかを検証する。さらに、研究成果を積極的に学会等で発表することで、準粒子スペクトルの非対称性が誘起する様々な超伝導現象を国内外の研究者に向けて宣伝し、理論・実験研究双方の発展を促していきたい。
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Research Products
(9 results)