2020 Fiscal Year Annual Research Report
内在性ウイルス様配列(EVE)に由来する機能性配列についての体系的解析
Project/Area Number |
19J22241
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川崎 純菜 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 内在性ウイルス様配列 / 機能ゲノミクス / 古代ウイルス / ウイルス多様性 / ウイルス進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
内在性ウイルス様配列(EVE)とは、生物のゲノムに存在するウイルスに由来する遺伝子配列である。興味深いことに、一部のEVEは、抗ウイルス因子や胎盤形成因子として、宿主生理機能の一端を担っていることが報告されている。一方で、EVEが持つ機能活性を解明した報告は未だ少ない。そこで本研究では、機能活性を持つEVEを効率的に同定・解析することを目的とし、(1)遺伝子データ解析によるEVEの網羅的探索、(2)オミクス解析によるEVE機能の検証を行う計画を立案した。 (1)遺伝子データ解析によるEVEの網羅的探索 2019年度には、RNAウイルスの一種であるボルナウイルスに由来するEVE(内在性ボルナウイルス様配列: EBL)を、公的ゲノムデータにおいて探索し、1,400を超えるEBL遺伝子座を同定した。2020年度には、大規模な分子進化学的解析により、約1億年間にわたって、EBLがさまざまな脊椎動物のゲノムに獲得されてきたことを明らかにした。以上の結果は、ウイルスー宿主の共進化に関して新たな知見をもたらすものであったため、申請者が筆頭著者として論文を発表し(https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.12.02.408005v2)、すでに国際学術誌において受理されている。 (2)オミクス解析によるEVE機能の検証 2019年度には、DNA・RNA・タンパク質レベルにおいて機能するEBL遺伝子座を同定するために、ヒト健常組織から取得されたオミクスデータを解析した。また2020年度には、ヒト以外の生物において機能性EBLを探索するため、公的データベースで公開されているRNA-seqデータを解析した。その結果、ヒトおよびその他生物において、機能性EBLの候補遺伝子座を同定した。以上の結果は、EBLの機能を解明するために不可欠なデータである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでに申請者は、本研究計画の達成に不可欠である、EBLの機能に関する基盤データを得ることに成功している。2019年度には、ヒトゲノムに存在するEBL遺伝子座が宿主生理機能に貢献する可能性を検討するために、公的シークエンスデータを解析した。その結果、これまでに報告がなかった5つの遺伝子座が、由来となるウイルスの遺伝子とほぼ同じ長さのタンパク質をコードする可能性を示した。また、トランスクリプトーム解析により、13のEBL遺伝子座に由来する転写産物の発現を、ヒト正常組織において同定した。さらに、エピゲノム解析の結果、9つのEBL遺伝子座が、宿主遺伝子のエンハンサーやプロモーターとして機能している可能性を見出した。2020年度には、公的データベースにおける脊椎動物のトランスクリプトームデータを解析することで、ヒト以外の生物においても機能性EBLの候補遺伝子座を同定した。 また、本研究の過程で得られた、ウイルスー宿主生物の共進化についての研究成果を、筆頭著者論文として国際学術誌に発表した。本内容では、分子進化学的解析により、脊椎動物におけるボルナウイルスの感染が、約1億年前から現代に至るまで、くり返し発生してきたことを見出した。これは、当初の研究計画に含まれていなかったが、ウイルスと宿主生物の長期的な進化過程の解明に貢献する重要な結果であったため、さらなる系統学的解析を実施した。結果、数千万年にわたる脊椎動物とボルナウイルスとの間の共進化過程を明らかにし、地質学的タイムスケールにおけるRNAウイルス感染の歴史の解明に貢献した。以上より、本計画は当初の計画以上に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに申請者は、ヒトおよびその他の生物ゲノムにおいて、機能性EBLの候補遺伝子座を複数同定している。そのため2021年度は、以下の4つの実験を行い、EBLの機能活性の検証を行う。(1)トランスクリプトーム解析によりEBL由来転写産物と発現が相関する遺伝子群を抽出する。(2)共免疫沈降法により、EBL由来転写産物との相互作用因子を同定する。(3)蛍光抗体法またはin situ hybridizationによって、EBL由来転写産物の細胞内の局在を同定する。(4)抗ウイルス活性を検討するために、EBL由来転写産物を過剰発現させた細胞において、ウイルス感染実験を実施する。 また、2020年度に実施したトランスクリプトーム解析により、900を超えるRNAウイルスの感染を公的RNA-seqデータにおいて同定した。さらに、本解析により同定されたウイルス感染の中には、未知ウイルスの感染も含まれていた。これらの結果は、当初の研究計画において予想されたものではなかったが、ウイルス学および公衆衛生学における重要な発見につながる可能性があるため、当初の研究計画と並行して、本内容について追加の解析および論文発表の準備を進める。本内容では、以下の2つの解析を実施することで、公的シークエンスデータの再解析により、新規ウイルスの発見やウイルス感染状況のモニタリングが可能であることを実証する。(1)遺伝学的解析により、新規ウイルスの詳細な性状を解明する。(2)ウイルスメタゲノム解析により、今回同定したウイルスが自然界においてどの程度蔓延しているかをモニタリングする。
|
-
-
[Journal Article] Identification of novel avian and mammalian deltaviruses provides new insights into deltavirus evolution2021
Author(s)
Masashi Iwamoto, Yukino Shibata, Junna Kawasaki, Shohei Kojima, Yung-Tsung Li, Shingo Iwami, Masamichi Muramatsu, Hui-Lin Wu, Kazuhiro Wada, Keizo Tomonaga, Koichi Watashi, Masayuki Horie
-
Journal Title
Virus Evolution
Volume: 7
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Open Access
-
-
-