2019 Fiscal Year Annual Research Report
The search for CP violation in a neutrino sector by the precise measurement of two kinds of spectrum
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19J22258
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安留 健嗣 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ニュートリノ / J-PARC / T2K実験 / トラッカーの製作 / 微分断面積の測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、ニュートリノ振動を利用してレプトンにおいて物質と反物質の性質が異なるという、CP対称性の破れを探索するT2K実験に所属している。現在、T2K実験は2σの信頼度でその兆候が見えていることを報告しており、より高い信頼度での測定に向けて統計誤差と系統誤差の削減が大きな課題である。本研究は、2種類のニュートリノフラックスを用いてニュートリノより精度の高い微分断面積の評価を行い、T2K実験の系統誤差の削減を目指している。本研究の物理測定は2019年の11月12月、および2020年の1月から2月にかけて行われた。 申請者は、下流ミューオン検出器のアップデートを行った。100 MeV/c程度の運動量を持つミューオンの運動量分解能が悪いため、シンチレータ層を2層デザインし、低運動量のミューオンの検出効率を高める改善を図った。2019年4~5月にかけて検出器をインストールし、MIP粒子を検出するのに十分な光量と検出効率があることを確認した。2019年の7月頃から、ニュートリノ反応の測定を行う検出器のノイズが大きいことがわかっていたため、その低減に取り組んだ。申請者はプロジェクトメンバーと協力し、最前線に立ってその問題を解決した。2019年の11月から2020年の2月にかけて、本研究の最重要課題である、T2Kのニュートリノビームを用いた断面積測定のための物理測定をやり遂げ、ニュートリノ反応に関する微分断面積の測定をこなすのに十分なデータを取得することができた。 粒子の飛跡や運動量・電荷を再構成する手法について、既存のツールでは特定の検出器にしか利用できないものを、より汎用的に利用できるように改良した。それを用いてニュートリノビームによる各検出器の測定データを解析し、それぞれの標的検出器とミューオン検出器が安定してニュートリノ反応を検出できていることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
物理測定の日程は計画に比べて半年ほど遅れたものの、物理測定が始まるまでの期間に下流ミューオン検出器のアップデートや、モンテカルロシミュレーションの開発、粒子の飛跡や運動量、電荷を再構成するアルゴリズムの開発を進めることができた。物理測定の準備段階では、標的検出器と標的検出器の横方向に設置されているミューオン検出器に、予想していないほど大きなノイズが乗っていることが発覚した。標的検出器のノイズの原因を突き止め、そのノイズを測定に支障をきたさない程度まで低減させることはできたが、標的検出器の横方向に設置されているミューオン検出器のノイズは準備期間では対処できなかった。2019年と2020年の物理測定の合間に根本原因を突き止め、最終的に2020年の1月下旬に、全ての検出器を期待通りの性能で動かすことができた。 前述した検出器のノイズの問題で、水標的のニュートリノ反応の統計量は予想していた量の半分程度しか取得できなかったものの、CH標的のニュートリノ反応については期待していた統計量を取得することができた。いずれの標的についても、T2K前置検出器とは異なるニュートリノのエネルギーにおける、ニュートリノの微分断面積を測定するのに十分な統計量を確保できた。現在、物理測定前に準備したソフトウェアを用いて両方の標的についての解析を進めており、今年中にニュートリノ反応の微分断面積の測定結果に関する学術論文を作成できる見通しである。 以上のことから、計画よりも多少遅れているが、ニュートリノ反応を理解してT2K実験の系統誤差を削減するという目標に向けて、順調に進行していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの解析では、2019年、2020年に行った物理測定のデータをもとに、水標的検出器・CH標的検出器でニュートリノ反応を安定して取得できていることまで確認できた。本研究の目標は、2種類のニュートリノフラックスを用いたニュートリノ反応の微分断面積の精密測定を通じて、T2K実験の系統誤差を削減することである。当面は、1種類のニュートリノフラックスにおけるニュートリノ反応の微分断面積を測定し、ニュートリノ反応モデルと比較することを目指す。同時に粒子の飛跡や運動量・電荷を再構成する手法を改良していく。この解析結果を学術論文として発表する。 その後、T2K前置検出器ND280を用いて、もう1種類のニュートリノフラックスにおけるニュートリノ反応の微分断面積の測定データを含めた、より精度の高い微分断面積の評価を行う。この評価を行う際には、T2Kのソフトウェアエキスパートと協力してデータの解析を進める予定である。
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Research Products
(5 results)