2020 Fiscal Year Annual Research Report
The search for CP violation in a neutrino sector by the precise measurement of two kinds of spectrum
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19J22258
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安留 健嗣 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ニュートリノ / J-PARC / T2K実験 / 微分断面積の測定 / ニュートリノ振動解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究者は、ニュートリノ振動を利用してレプトンにおいて物質と反物質の性質が異なるという、CP対称性の破れを探索するT2K実験に所属している。今年度は、2020年までに取得した全ての物理データを用いてニュートリノ振動の解析を行い、90%の信頼度でニュートリノCP対称性の破れを示唆するという結果をNature誌に公表した。この測定結果は世界最高レベルの精度を誇る。本研究者は、2019年, 2020年のビーム運転において、ニュートリノビームの方向を監視する検出器を用いて、ビーム方向を0.1mrad 以内に制御し続けることに成功し、最新結果の解析に貢献した。今後、T2K実験の測定精度を高めるためには統計量を増やすことに加えて、検出器やニュートリノ反応の理解を進めて、系統誤差を削減していくことが不可欠となる。本研究者は、T2K実験の主要な系統誤差となっているニュートリノ反応の不定性を抑制することで、T2K実験での系統誤差を削減することを目指したWAGASCI(ワガシ)実験を主導している。初年度に開発したモンテカルロシミュレーションおよび解析コードを用いて、2019年, 2020年に取得したデータを解析し、いずれの検出器もヒット検出効率・飛跡再構成効率が95%以上であることを明らかにし、検出器が粒子の飛跡を検出するのに十分な性能を持つことを確認した。また、このデータを用いてシミュレーションのパラメータを調整し、検出器の応答を2%程度の精度で再現するシミュレータを構築した。さらに、ニュートリノ反応点の再構成精度、角度・運動量の分解能(いずれも95%以上)を見積もり、ニュートリノ反応を取得する十分な精度があることを確認した。現在は、水および炭化水素標的におけるニュートリノの荷電カレント反応の微分断面積の導出を行う解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究者は、レプトンセクターにおけるCP対称性の破れの探索を目指すT2K実験に所属し、T2Kミューオンモニターの運用および、T2K実験の系統誤差を削減する実験(WAGASCI実験)を精力的に進めている。T2K実験は2020年に、ニュートリノにおけるCP対称性の破れを90%の信頼度で示唆するという最新結果をNature誌に公表した。この測定において本研究者は、T2K実験の運転に不可欠なミューオンモニターの較正・運用・解析の全てを中心となって行った。また昨年度に取得したWAGASCI実験のデータおよび開発した解析システムを駆使し、検出器の光量分布、ヒット検出効率(95%)、再構成効率 (95%)、ニュートリノ反応点、粒子の角度・運動量分解能(それぞれ5-10%程度)に関する性能評価を中心となって進め、どの検出器もニュートリノ反応を正しく測定できていること、および解析システムが物理解析を導出するために十分な性能を発揮していることを検証した。その上で、モンテカルロシミュレーション(MC)における物理過程を記述するパラメータを検出器の応答を基に調整し、MCによる各検出器性能をデータに対して高々2%のずれで再現した。また本プロジェクトでは、解析システムは継承されることなく進められていた。本研究者は長期的な視野を持ち解析環境を大幅に見直して、その後の研究でも応用可能なシステムの構築を行った。2021年3月には二度目の物理測定を行い、より多くの統計量を得るためのデータ取得を行った。この測定において、本研究者が中心となって検出器の校正や運用、およびデータ解析を行い、全ての検出器が正しくデータ取得を行なったことを確認した。データ取得およびその解析は順調に進行しており、今年度中に最終結果の解析を終えられる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、ニュートリノ・原子核の反応断面積を精密に測定し、その結果を用いてT2K実験での系統誤差を抑えた上でニュートリノ振動の解析を行うことで、より高感度のCP対称性の破れの探索を進めることである。今後は、ニュートリノ振動の解析および、ニュートリノ反応における反応断面積の解析を同時に進める。 ニュートリノ振動の解析については、ニュートリノ振動の測定を行う新しいサンプルを追加し、現在までの全てのデータを用いて反応事象数を導出し、CP対称性の破れの解析結果を更新する。この結果を国内外の学会にて公表する。同時に、WAGASCI実験において、水および炭素標的のニュートリノ・原子核反応の荷電カレント反応断面積の導出を目指す。まず、目的の事象を選択するアルゴリズムを開発し、信号事象と背景事象を弁別する。その後、あらゆる系統誤差を考慮した上で、ニュートリノ荷電カレント反応由来のミューオンの角度と運動量に関する微分断面積を導出する。この結果をシミュレーションと比較し、シミュレータの妥当性を検証する。本測定結果を学術論文として投稿し、国内外の学会にて発表する。また、本測定結果をT2K実験の振動解析に反映させることで系統誤差を抑制する。その上で再度、ニュートリノ振動の解析を行い、系統誤差を抑制することにより、より高い感度でCP対称性の破れの探索を行うことを目指す。
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Research Products
(7 results)