2019 Fiscal Year Annual Research Report
惑星や衛星の熱水環境がもたらすハビタビリティに関する研究
Project/Area Number |
19J22396
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野田 夏実 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 惑星科学 / 地球化学 / 火星 / 地下水循環 / 水岩石反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度(採用1年目)の研究計画として、①初期火星地下を模擬した熱水岩石反応実験による地下水の溶存組成の制約、②地熱の効果を付与した3次元水循環モデルの動作確認の実施、③初期火星の熱水環境についての研究成果の国際学術誌への投稿、の3点を掲げていた。 ①については、着陸探査データを基に合成した模擬火星岩石を用いて、8か月間に及ぶ熱水岩石反応実験を実施し、溶液の化学組成変化および生成した二次鉱物組成の分析を行うことができたので、順調に研究が進行したと言える。初期火星地下に推定される100℃程度の比較的低温な条件における熱水岩石反応の進行は非常に遅く、動態を調べるためには長期的な実験が不可欠であったが、これを達成した。 ②の地下水循環モデルについても、地下の地温勾配を任意の値に設定して計算を実施する手法を確立し、概ね順調に進行した。また、地下水循環が表層の気候(降水や蒸発など)に依存することが計算結果から示唆されたため、惑星の全球気候モデルを得意とする海外の研究者複数名とも議論を行いながら、丁寧に解釈した。加えて、同モデルを用いた共同研究も積極的に行い、自身の研究に活かせる知見を得た。 ③については、論文の投稿に向けて執筆には励んだものの、①に述べたように長期的な実験が必要と判明したこと等により達成できなかったため、次年度以降に継続して行う。学術誌への投稿には至らなかったが、当該研究の成果について、地球化学分野の大規模な国際学会であるGoldschmidtにおけるポスター発表や、地球物理学分野の大規模な国際学会であるAGU(American Geophysical Union)秋季大会における口頭発表等を行い、各国の研究者との議論に励んだ。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に掲げた、初期火星の熱水岩石反応実験と、熱水循環モデルの作成が順調に進行している。投稿論文の執筆には予定よりも時間がかかっているが、これは実験に長い期間を要したり、得られたデータを慎重に解釈・議論したりしたためで、問題ないと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度の課題として、まず、火星地下熱水岩石反応と地下水循環に関する論文の国際学術誌への投稿をめざす。 さらに、当初の本研究の計画では、熱水-岩石反応による無機イオンの物質循環を明らかにすることを目的としていたが、近年の火星探査では有機物の存在が報告され注目されている。これら有機物は鉱物界面が触媒として機能するような熱水岩石反応を経て生成した可能性も考えられる。生体の構成要素である有機物の起源は生命起源研究の重要なターゲットであるうえ、地球以外の環境でどのような有機物が生成するか否かは、その環境のハビタビリティを議論する上で欠かせない問題であり、本研究の目的と密接する事柄である。このことを踏まえて、初期火星での有機物生成プロセス解明も視野に入れた研究を推進したいと考えている。 また、成果を積極的に国際会議で発表し、フィードバックを得ながら研究を推進する予定である。
|