2020 Fiscal Year Annual Research Report
惑星や衛星の熱水環境がもたらすハビタビリティに関する研究
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19J22396
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野田 夏実 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 初期火星 / 水岩石反応 / 粘土鉱物 / 熱水実験 / STXM |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 初期火星地下の熱水岩石反応模擬実験および地下水循環シミュレーションの結果の国際学術誌への投稿:米国地球物理学連合が発行する国際誌であるJournal of Geophysical Research: Planets に投稿した。残念ながら非受理となったため、再投稿を目指してモデルの妥当性を示すための追加計算や解析方法の改良などを行った。 2. 初期火星や小天体における還元剤生成反応や有機物合成反応を解明するための熱水実験システム及び分析手法の確立:貧酸素熱水実験システムを整備し、空気中の酸素の影響を防ぎながら実験や分析を行うことに成功した。また、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)や走査型透過X 線顕微鏡(STXM)を用いた生成物の分析手法を習得した。 3. 初期火星や小天体の還元環境で熱水岩石反応に寄与しうる、二価鉄粘土鉱物の合成実験:粘土鉱物の合成に関して知見や設備が充実している物質・材料研究機構に研究生として訪問し、粘土鉱物の水熱合成手法を習得した。合成中の大気酸素による鉄酸化を防ぐため、酸素除去装置付きグローブボックスで達成される厳しい貧酸素環境下で、水熱合成から乾燥・分析までの全ての行程を大気に触れずに行える手順を構築した。生成物はX 線回折(XRD)分析、赤外分光(IR)分析、X線吸収微細構造(XAFS)分析、STXM 分析と複数の方法を全て嫌気的に行い、目的鉱物の構造が得られていること、二価鉄の全鉄に占める割合が約80%と非常に高い水準をとることを確かめた。 4. 熱水-鉱物界面における有機物合成反応の室内実験の実施:3 で合成したサポナイトを使用し、2 で開発した手法のもと二価鉄サポナイトやその他の含鉄鉱物を用いた熱水岩石反応実験を60 通りの条件で実施し、生成物の分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、所属研究機関や関連研究機関への立ち入りが大幅に制限されたが、その中で掲げた課題をできる限り進行した。研究機関への立ち入りができなかった期間には、論文執筆を集中的に進めた他、実験手法や分析手法の検討のために各分野の知見に富む研究者らとのディスカッションや文献の調査に充てた。XAFSやSTXM等の化学分析では放射光施設の利用が必要となったが、共同研究者らに試料を郵送したり、状況を適切に判断し感染対策を徹底した上で自ら分析に立ち会ったりすることで、可能な範囲でデータの取得及び分析原理の理解・技術の習得を達成した。 しかし、論文が不受理となった点、各研究機関での実験・分析を実行に移せる時期が遅れた点、熱水実験中のコンタミネーション対策の重要性が発覚した点などの課題も生じた。これらには着実に対応を進めている段階にあり、次年度以降も継続していく見込みである。 また、今年度は当初計画していた学会発表も行うことができなかったが、これは新型コロナウイルス感染症拡大の影響で投稿予定だった学会が中止となったり実験の開始が遅れたりしたためである。来年度は積極的に発表を行い、得られた結果を踏まえた他研究者との議論の機会を増やすため、投稿を既に行っている(採択済み2件)。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究計画として、以下の4つを掲げる。 1.火星地下熱水岩石反応と地下水循環に関する論文の再投稿(継続) 2.二価鉄鉱物を用いた熱水実験による水素生成フラックス推定:これまでの研究で合成可能となった二価鉄サポナイトを用いた、初期火星環境を模した熱水実験を継続して行う。特に、反応環境を様々に変えた実験を行い、還元剤として環境に供給される水素の生成量を定量的に検証する。 3.同位体ラベリングを用いた有機物生成過程の精査:昨年度までの研究で、二価鉄サポナイトを用いた熱水岩石反応実験から有機物合成反応を調べる実験・分析では、反応系に無関係な有機物のコンタミネーションの危険性が免れられられないことが判明した。そこで、今後は同位体ラベリングを施した実験系の準備および実施を行うことで反応の有無や反応経路を確定させ、二酸化炭素還元・固定の効果を精査する。 4.総合的な議論および投稿論文・博士論文の執筆:以上の結果を踏まえて、二価鉄サポナイトをはじめとした還元的な鉱物と熱水との反応が、初期火星をはじめとした液体の水を保持する天体のハビタビリティにもたらす影響を総合的に議論し、国際誌への投稿および学位論文としての成果発表を行う。
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Remarks |
東京大学の学園祭である第93回五月祭、第71回駒場祭における学術企画「10分で伝えます!東大研究最前線」を代表として運営した。その際に自身も講演者として、本研究課題の内容やその背景にあたる内容を踏まえた、一般向けのアウトリーチ講演をオンラインで行った。
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Research Products
(2 results)