2020 Fiscal Year Annual Research Report
微多孔シリカ膜の開発と脱水プロセスへの応用-膜開発・性能評価・分子透過機構-
Project/Area Number |
19J22400
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
森山 教洋 広島大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 膜分離 / 湿りガス分離 / 水蒸気回収 / 浸透気化 / オルガノシリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究では、オルガノシリカ膜を初めて湿りガス分離に応用し、既往の他材料膜と同程度の分離性を有しながらも10倍程度高い優れた処理量を示すことを報告した。今年度は、さらなる水蒸気選択透過性を目指して、膜細孔径の最適化を行った。同一材料を用いてオルガノシリカ膜の細孔径をナノからサブナノオーダーに亘って作り分けることに成功した。ナノ細孔膜は非常に高い水蒸気透過性を示すものの、実用的な条件下では十分な分離性を達成できなかった。一方で、サブナノ細孔膜は分子ふるい効果に基づいてあらゆる条件下で高い分離性能を示した。さらに驚くべきことに、サブナノ細孔膜の細孔径はナノ細孔膜よりも著しく小さいにも関わらず、水蒸気透過量はわずかに低下した程度であった。したがって、サブナノ細孔を用いることで、高い水蒸気透過性と高い分離性が両立可能であることが明らかとなった。サブナノ細孔膜を用いて、蒸気透過による加圧水蒸気の回収をした場合、実用化されている技術であるMembrane Condenserの数倍の水蒸気回収量を示した。また、実用系を意識した塩化水素や二酸化炭素の共存下での水蒸気回収実験を行い、高選択透過性・安定性を明らかにした。 さらに、湿りガス分離のみに限らず、有機溶媒の浸透気化脱水にも取り組んだ。浸透気化脱水は既に実用化された技術であるが、透過メカニズムの不明瞭さゆえに性能予測が困難であった。本研究では様々な有機溶媒、様々な膜材料を用いることで、膜細孔構造と分子サイズが水透過特性に及ぼす影響を明らかにした。さらに、ガス透過特性と浸透気化特性の類似性に着目し、簡便に測定可能なガス透過特性に基づいて浸透気化性能を予測する手法を、実験および理論的アプローチにより世界で初めて確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでに,シリコン原子間を有機架橋したシリカ膜であるオルガノシリカ膜が100-200℃レベルで高い水蒸気透過性のみならず,空気などの非凝縮性ガスに対して高い選択性を示すことを世界に先駆けて見出した。また,オルガノシリカ膜構造に注目し,疎水的な多孔質中間層を用いることで膜全体の水熱安定性を著しく向上させることにも成功した。上述の研究成果は,当初の目標の膜性能を達成しただけでなく,プラント排ガス等からの水蒸気回収に膜を応用できる可能性を見出した。さらに,水蒸気回収用に膜細孔径を最適化することにも成功している。 さらに,水蒸気回収のみならず,有機溶媒の浸透気化脱水にも展開しており,膜細孔構造と分子サイズが水透過特性に及ぼす影響を明らかにした。さらに、ガス透過特性と浸透気化特性の類似性に着目し、簡便に測定可能なガス透過特性に基づいて浸透気化性能を予測する手法を、実験および理論的アプローチにより世界で初めて確立した。 また,膜性能の評価法についても研究を広げており,実験データに基づいて透過率を求める算出式の妥当性について数値計算により検討した。算出式の適用範囲を分かりやすくマッピングすることに成功している。 上記のように,膜性能における数値目標を達成しただけでなく,分離系の拡張や透過メカニズムの解明,新規性能予測法の確立,透過率算出式の評価に研究が広がった。当初の計画以上に,水分離プロセスの高度化に貢献したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、オルガノシリカ膜による湿りガス分離を社会実装レベルまで高度化することを研究目的とする。特に、プラント排ガス等からの水蒸気回収をターゲットとし、3つの課題に対して研究を進める。 第1の課題は、開発したオルガノシリカ膜の性能は既にトップレベルではあるが、水蒸気透過性が極めて高いのに対し、選択性は中程度であることである。これは膜が疎水的であり、ブロッキング(細孔内に吸着した水が他成分の透過を妨げる)が起こりにくいためだと推察される。したがって、膜を親水化することで選択性の向上を試みる。具体的にはアルミニウム等の金属をオルガノシリカ構造にドープし、電荷の偏りによる水吸着サイトの形成をねらう。得られた湿りガス分離性能とバルクの吸着特性を関連付け、金属ドープの効果を明らかにしたい。 第2の課題は、実ガスに含まれる様々な成分の影響が不明であることである。また、本手法による水蒸気回収は例のない試みであるため、プロセス運転方法の検討も不可欠である。したがって、様々な成分(HCl, O2, CO2, CH4 etc.)が含まれた模擬ガスの分離実験および数か月レベルの安定性試験を行う。プロセス運転に関しては、膜下流側を冷却により減圧する手法の可能性を理論的・実験的に明らかにする。 第3の課題は、オルガノシリカ膜は例のない極めて高い水透過性を示すものの、その現象の理解が十分でないことである。水は環境によって容易に物性が変化する物質であり、特に膜分離は分子サイズの細孔内を分子が1個単位で輸送される現象であるため、相状態すら定義できない。本研究では、操作温度および圧力を連続的に変化させ、膜の透過/非透過側を気/気、気/液、液/液と変化させながら透過速度をモニタリングすることで水の透過メカニズムを明らかにする。非常にロバストな膜の開発に成功したからこそ成し得る、極めて新規性の高い研究である。
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