2019 Fiscal Year Annual Research Report
食物繊維由来短鎖脂肪酸を認識する新規受容体Olfr78を介したエネルギー代謝制御
Project/Area Number |
19J22456
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
渡辺 啓太 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 食物繊維 / エネルギー代謝 / 短鎖脂肪酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
一年目の研究実績は大きく、1.肥満抑制効果の高い食物繊維の選別、2.短鎖脂肪酸の生理活性機序の解明に分けられる。 1.肥満抑制効果の高い食物繊維の選別 食物繊維の結合様式や鎖長の違いに着目して、肥満抑制効果を示す食物繊維の探索を行った。本年は、同じ結合様式を有する粒子径の異なる食物繊維を研究対象とすることで、食物繊維の種類に加え、摂取時の粒子径の違いによる抗肥満効果への影響を検討した。その結果、同じ結合様式の食物繊維であっても、その粒子径が異なることで抗肥満効果に影響を及ぼす可能性が示唆された。加えて、抗肥満効果が確認されたいずれの群においても盲腸中の短鎖脂肪酸量が顕著に増加しており、抗肥満効果の分子実体として短鎖脂肪酸の可能性が示唆された。一方で、同程度の抗肥満効果を示した食物繊維を比較すると、増加した短鎖脂肪酸の種類が異なっていたことから、食物繊維摂取による抗肥満効果の作用機序については、食物繊維の結合様式、摂取時の粒子径の違いによって生じる短鎖脂肪酸の産生プロファイルの変動に従って、異なった分子作用メカニズムを有する可能性が示唆された。 2.短鎖脂肪酸の生理活性機序の解明 我々は、短鎖脂肪酸を食物繊維を基質とした腸内細菌発酵による摂取のみならず、日々の食事からも一定の割合で直接摂取しており、食事から直接摂取吸収される短鎖脂肪酸もまた、エネルギー代謝調節に関与する可能性が推察される。そこで、短鎖脂肪酸による生理活性機序を明らかにする一環として、Olfr78遺伝子欠損マウスを対象に、短鎖脂肪酸経口摂取が示す抗肥満効果におけるOlfr78の関与を検討した。その結果、個体レベルにおいては、Olfr78は酢酸を介して抗肥満効果を発揮する可能性が示唆された。また、この抗肥満効果は、既存の短鎖脂肪酸受容体とは異なる分子メカニズムを介している可能性が推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一年目は、研究開始時に定めた年次計画を着実に進め、短鎖脂肪酸によるOlfr78を介したエネルギー代謝制御に関する研究を十分に進展させたと考える。年次計画の一つである『肥満抑制効果の高い食物繊維の選別』においては、食物繊維の種類だけでなく摂取時の粒子径の大きさの違いが、生体のエネルギー代謝制御に影響を及ぼす重要な要素である可能性を見出した。また、『短鎖脂肪酸の生理活性機序の解明』においては、Olfr78が、既知の短鎖脂肪酸受容体とは異なる作用機序を介して抗肥満効果をもたらしている可能性を示した。また、『Olfr78のリガンドスクリーニング』においては、既報通り、酢酸及びプロピオン酸でのみ、活性が確認され、生体内リガンド候補を酢酸及びプロピオン酸に絞ることができた。加えて、自身の研究を進めていく過程で習得したメタ16S解析等のバイオインフォマティクスの知見や質量分析、メタボロミクス解析に関する実験技術を駆使し、新たな食由来腸内細菌代謝産物や生体内の各種脂質リガンドによる宿主代謝機能への影響を検討した。それらの研究成果として、4報の学術論文を共同著者として発表している。うち2報が、食とエネルギー代謝制御を腸内細菌とその代謝産物による生理機能の観点からまとめた報告であり、エネルギー代謝制御における食の重要性を分子レベルで明らかにすることを目的とした本研究内容に関連付けることができる。以上より、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
先行研究より、食事による短鎖脂肪酸摂取が、既知の短鎖脂肪酸受容体の一つであるGPR41を介して肝臓の代謝機能改善作用をもたらすことが明らかとなった。これを踏まえて、前年度の研究では、短鎖脂肪酸による生理活性機序が明らかとされていない、新規短鎖脂肪酸受容体Olfr78を対象とした試験を、先行研究と同条件でOlfr78遺伝子欠損マウスに対して実施し、短鎖脂肪酸経口摂取による食事誘導性肥満に対するOlfr78による抗肥満効果への影響を検証した。その結果、野生型マウスにおいては、短鎖脂肪酸を負荷することで、対照群と比較して体重増加抑制効果が観測されたのに対し、Olfr78欠損マウスにおいては、プロピオン酸・酪酸負荷群においてのみ、野生型マウスと同程度の体重増加抑制効果が観測された。一方で、Olfr78欠損マウスに対して酢酸負荷を行うと、野生型マウスに酢酸負荷を行った場合と比較して、対照群に対する体重増加抑制効果に減弱が見られた。先行研究においては、遺伝子欠損により、GPR41のリガンドである酢酸・プロピオン酸・酪酸いずれにおいても体重増加抑制効果の減弱が観測されているのに対し、前年度の研究においては、Olfr78のリガンドのうち、酢酸でのみ体重増加抑制効果の減弱が確認された。GPR41とOlfr78は発現臓器に相関が認められるものの、下流シグナルが対照的な動きをするため、Olfr78は先行研究とは異なる分子メカニズムで抗肥満効果をもたらしている可能性が推察される。そこで本年度は、Olfr78による抗肥満効果の詳細な分子メカニズムを明らかにすることを目的に、野生型マウス、Olfr78遺伝子欠損マウスに対して酢酸、プロピオン酸負荷の長期負荷を行い、遺伝子発現変化や、各種代謝パラメーター(血液生化学指標、腸管ホルモン、運動量、エネルギー消費量、酸素消費量等)の測定を行っていく。
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Research Products
(7 results)