2020 Fiscal Year Annual Research Report
About the so-called "Narten-presents" in Celtic
Project/Area Number |
19J22537
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小林 浩斗 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 印欧語族 / 意味変化 / 態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、COVID-19の流行により国外で研究活動を実施することが一切できなかったため、この年度の主だった研究活動はデータ収集となった。特に、13世紀ウェールズの写本"Llyfr Aneirin"(アネイリンの書)に収められている7世紀から11世紀の叙事詩"Gododdin"(ゴドズィン)を講読し、このテキストに現れる中動態形の動詞、動詞「行く」の各語形、および移動動詞の用例の収集に力を入れた。 ウェールズ語を含むケルト語派ブリトニック語群において動詞「 行く」を担う語根が他の印欧諸語で動詞「駆り立てる」に使用されていることから、ブリトニック語群の古い時代に動詞「駆り立てる」の中動態が動詞「行く」として使用されるようになった可能性がある。前年度は意味の連鎖変化を提唱してこれの説明を試みたものの、反証可能性に欠けることが問題となったため、意味の連鎖変化を裏付ける根拠がないか確認すべく用例収集に着手した形である。しかし、まだテキストを最後まで講読してはいないものの、これまでに収集した動詞は管見の限り、自動詞的に、または他動詞の受動態として用いられている。意味の連鎖変化を裏付けたり研究を押し進めたりするような特異な例は見つかっておらず、現段階でこれらの動詞のアラインメントなどに関する十分な考察にも至っていない。また、前年度に並行して収集することを予定していたゴイデリック語群やラテン語など他の印欧諸語からのデータも十分に得られていない。そのため、学会など外部で発表するに足る考察やその根拠を得ることができず、今年度はなんら業績をあげることができなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度はCOVID-19の流行により外国に渡航することが全くできなかった。特に、アイルランドのDublin Institute for Advanced Studiesが開催を予定していたCeltic Studies Summer School 2020が延期されたことによる損失が大きい。というのも、このサマースクールは三年に一度しか開催されないため、筆者が学振特別研究員である間にこのサマースクールに参加するには本年度しか機会がなかったからである。これにより、本来得られるはずであった知見の獲得、および研究者同士の意見交換の機会が失われ、研究の進展が阻まれた。 本年度の主だった研究活動はデータ収集となったが、これまでに収集したウェールズ語の動詞の用例は管見の限り、自動詞的に、または他動詞の受動態として用いられており、意味の連鎖変化を裏付けたり研究を押し進めたりするような特異な例は見つかっていない。また、現段階でこれらの動詞のアラインメントなどに関する十分な考察にも至っておらず、前年度に並行して収集することを予定していたゴイデリック語群やラテン語など他の印欧諸語からのデータも十分に集めることができていない。 そのため、学会など外部で発表するに足る考察やその根拠を得ることができず、今年度はなんら業績をあげることができなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、叙事詩ゴドズィンから動詞「行く」、中動態の動詞、および移動動詞の用例を収集するほか、ウェールズ語と同じくブリトニック語群に属するブルトン語からのデータも収集し、ブリトニック語群の古い時代に動詞「駆り立てる」が「行く」を意味するに至った経緯を考察する。また、前年度に予定していた、ケルト祖語の動詞「行く」に用いられている各語根の印欧祖語におけるアクチオンスアルトの考察、ケルト祖語の動詞「行く」に想定される印欧祖語からの補充の成立過程の考察を改めて試みる。 ケルト祖語において動詞「行く」として用いられている各語根が他の印欧諸語でどのような意味を担っているかを知り、各印欧諸語にみられる他の動詞の補充のデータを収集できれば、これらの語根のアクチオンスアルトが判明し、Narten-presentsと動詞の補充という別個に扱われている事象をアクチオンスアルトという一つの観点から説明することが可能になると思われる。そして、得られた動詞のパラダイムと動詞「行く」のパラダイムを照合させれば、ケルト語派にみられる動詞「行く」の補充の解明につながると考えている。また、動詞「行く」の補充という現象は、前年度の推進方策で記述していたように、ラテン語からロマンス諸語への変遷において実例が見られるため、フランス語やスペイン語などのケースを印欧祖語からケルト祖語への変遷に想定される補充と照らし合わせる。 動詞「行く」の補充について、印欧祖語からケルト祖語、ケルト祖語から各ケルト諸語、ラテン語からロマンス諸語への変遷という三つの側面は個々に独立した研究となりうるため、研究の進捗に応じて国内の学会での発表または雑誌への投稿を試みる。また、可能であれば、アイルランドやウェールズなどのケルト語圏で開催されるケルト諸語のサマースクールにも出席し、ケルト諸語の習熟を図り、講師や参加者との意見交換を試みる。
|