2019 Fiscal Year Annual Research Report
最適化理論に基づく免疫学習原理の解明と免疫に学ぶ最適化手法の探索
Project/Area Number |
19J22607
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中島 蒼 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 免疫学習 / 最適化 / 数理生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
免疫学習では,外敵の一部分を認識する免疫細胞が集まりレパートリーを構成することで,集団として多様な外敵を認識し記憶している.しかし,可能な免疫細胞数には限りがあるため,レパートリーは多様な外敵な情報を,重要なものは保ちつつ単純化すること(=コンパクト表現)で保持しているはずである.レパートリーの構成は,免疫学習と呼ばれる,感染した外敵を認識する免疫細胞が増えることによる増殖競争で変化する.しかし,増殖競争によるレパートリーの変化と,免疫学習というコンパクト表現の学習の関係は明らかでない.レパートリーがどの程度外敵の情報を保持できているかの指標(=評価関数)が,先行研究において提案され,暗に劣モジュラ性を持つと指摘されている(A. Mayer et al. PNAS 2015).本研究の目標は,この劣モジュラ性に着目し,免疫学習でコンパクト表現が学習される仕組みを解明することである. 本年度の計画は,数理モデルの構築とその性質の解析であった.現時点までの成果として,数理モデルの構築はできている.免疫細胞が複数の外敵を認識する cross-reactivity を考慮し,免疫細胞が各々の外敵をどの程度認識できるのかを表現するパラメタを導入した.すると,レパートリーの細胞数は子孫数がどれだけ外敵を認識できたかで決まる Wright-Fisher 過程でモデル化できる.また,レパートリーがどれだけ外敵を認識できたかの評価関数も先行研究(A. Mayer et al. )と同様に導入される.一方で,このモデルの生物学的妥当性の評価やその性質の解析には至っていない.評価関数が劣モジュラ性を持つことは判明しているが,モデルをより現実的なものに改良する過程で失われうるため,性質の解析には至っていないとここでは判断した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
目標としていた数理モデルの生物学的妥当性の評価や性質の解析には至っていないため,やや遅れていると判断した.
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度中に着手できなかった数理モデルの妥当性を検討する.特に,レパートリーの評価関数がモデルの重要な要素であるため,生物学的に自然な評価関数かを検討するのに注力する.その後,数理モデルの性質を調べる.免疫学習が上手くいく背景には,劣モジュラ性のような評価関数の良い数理的構造と考えられるため,この特定を目指す.また,本年度に構築したモデルは外敵の分布が固定であり,短期間での現象の分析を目的としたものであった.外敵の分布の時間発展も加え,長期間の動態も解析できる拡張も考える. モデルの妥当性の評価と性質の解析が終わった後は,これらの結果を用い,増殖競争と免疫学習というコンパクト表現の学習の関係を解析する.具体的には,免疫細胞の増殖競争がなぜ良いレパートリーを導くのかを,劣モジュラ性などの調べた評価関数の数理的性質から説明しようと試みる.劣モジュラ性を持つ関数は,貪欲法という局所的に最適な選択を繰り返す単純な方法で近似的に最大化ができるため,増殖競争でも評価関数がある程度は最大化されると期待される.そこで,実際に最大化されているかをオンライン最適化などの理論を用いた解析を試みる.また,増殖競争の結果,多様な外敵に対応できる機能が創発しているかを,増殖競争による学習後のレパートリーと最適なレパートリーの評価関数の値を比較し議論する.この際,理論・シミュレーションの両面から説明を試みる.また,実験的に検証可能な予言を提唱することによる本研究の成果の実験的な検証も検討する.
|
Research Products
(1 results)