2019 Fiscal Year Annual Research Report
新規キナーゼプルダウン法を活用したASK1の細胞種特異的機能の解明
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19J22644
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高柳 早希 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ASK1 / RIPK2 / NOD1 / NOD2 / 褐色脂肪細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
ASK1は生体内で多岐の細胞応答を制御する。当研究室では内在性キナーゼに対する新規プルダウン法を開発し、褐色脂肪細胞におけるASK1の新規結合候補因子としてRIPK2を同定した。RIPK2経路は複数の自己免疫疾患への関連が指摘されており、RIPK2経路制御の詳細なメカニズムの解明は疾患への新規治療法の開発につながると考えられる。本研究では、ASK1新規結合因子として同定されたRIPK2とASK1の関係に着目し、RIPK2経路におけるASK1の機能を解析することで、RIPK2経路の詳細な制御機構を明らかにするとともに、その生理学的意義を追究し、疾患研究への糸口を開くことを最大の目的としている。 当該年度の研究成果から、ASK1が褐色脂肪細胞にNOD-RIPK2経路を抑制する一方白色脂肪細胞ではNOD-RIPK2経路の顕著な寄与を持たないこと、ASK1はRIPK2への結合を介してRIPK2のアダプター分子としての機能を阻害することでNOD-RIPK2経路の活性化を抑制していることが明らかになった。 これらの結果から、ASK1のNOD-RIPK2経路への制御には細胞種依存性があることが示された。現在は褐色脂肪細胞特異的にASK1がNOD-RIPK2経路を抑制する意義について探求しており、より生理学的な意義の解明につながっていると考える。また、ASK1がRIPK2のアダプター分子としての機能を制御し、RIPK2の下流でのp38/JNK MAPKの活性化を抑制しているという知見は、NOD-RIPK2経路の制御においてMAPKの活性化がMAP3Kレベルで複雑に時空間的に制御されていることを示唆するものであり、本経路の詳細なメカニズムの解明に近づいたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はNOD-RIPK2経路へのASK1の寄与ならびにその分子機構に関して研究が進展した。 NOD1を恒常発現するHEK293A細胞株を樹立し、ASK1の過剰発現・発現抑制によりNOD-RIPK2経路へのASK1の寄与を検証したところ、ASK1はNOD-RIPK2経路を抑制することが示された。脂肪細胞は褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞に大別される。ASK1とRIPK2の結合は褐色脂肪細胞で初めて確認されたことから、脂肪細胞でのNOD-RIPK2経路へのASK1の寄与を検証した。その結果、ASK1は褐色脂肪細胞においてNOD-RIPK2経路の活性化と下流での炎症応答を抑制する一方、白色脂肪細胞では顕著な寄与を示さないことが判明した。ASK1のNOD-RIPK2経路への寄与に細胞種特異性があることが示されたことから、現在はASK1が褐色脂肪細胞特異的にNOD-RIPK2経路の活性を抑制する生理学的意義の探求に着手している。 また、ASK1がNOD-RIPK2経路を抑制する分子機構を解明すべく、ASK1のRIPK2への結合ドメインを検証したところ、ASK1がRIPK2のアダプター分子としての機能に必須のキナーゼドメインに特異的に結合することがわかった。そこでASK1がRIPK2への結合を介し、RIPK2のアダプター分子としての機能を阻害するというメカニズムを想定し検証した結果、ASK1はXIAPやTAK1などのRIPK2下流分子とRIPK2との結合、ならびにNOD-RIPK2活性化時にみられるRIPK2のK63型ユビキチン化を抑制することが判明した。 以上の成果は、NOD-RIPK2経路の詳細な制御機構を明らかにするとともに、ASK1によるNOD-RIPK2経路抑制の生理学的意義を追究して疾患研究への糸口を開くという本研究の目的に近づくものであり、本研究は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究成果より、ASK1は褐色脂肪細胞・白色脂肪細胞2種類の脂肪細胞種のうち、褐色脂肪細胞特異的にNOD-RIPK2経路を抑制することが解明された。褐色脂肪細胞はUCP1を介した熱産生を主要な機能とする。褐色脂肪細胞で、NOD-RIPK2経路を含む炎症応答経路の活性化は熱産生に関わる遺伝子の発現を抑制することが報告されている。ASK1はNOD-RIPK2経路を褐色脂肪細胞特異的に抑制することで、炎症応答経路を抑制することを介して炎症環境下での褐色脂肪細胞の機能を維持する働きを担っているという仮説を立てている。今後はこの仮説を証明するために、ASK1の発現抑制が、NOD-RIPK2経路活性下での褐色脂肪マーカーの誘導にいかなる寄与を示すかについて検証する。 さらに、ASK1がNOD-RIPK2経路を制御する分子メカニズムのより詳細な解析を行う。昨年度の研究により、ASK1がRIPK2への結合を介してRIPK2のアダプター分子としての機能を阻害することが明らかになった。NOD-RIPK2経路活性化時にASK1とRIPK2の結合強度が変化することでASK1がNOD-RIPK2経路を制御している可能性が考えられることから、NOD-RIPK2経路活性化時の時間依存的なASK1-RIPK2結合の変化について検証したい。この仮説が証明された場合、時間依存的にASK1-RIPK2結合が変化するメカニズムとして、NOD-RIPK2経路活性化時のRIPK2の翻訳後修飾によりASK1-RIPK2結合が変化している可能性が示唆される。そこで、RIPK2の翻訳後修飾サイトの変異体を作成し、野生型の場合とのASK1との結合強度を比較する。
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Research Products
(3 results)