2019 Fiscal Year Annual Research Report
3者同時交渉がもたらす2者関係の変化:カラスの同盟形成とストレス緩衝機能の検討
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19J22654
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
瀬口 瑛子 慶應義塾大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | カラス / 鳥類 / オス / 親和関係 / 優劣関係 / 毛づくろい / 内分泌 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は, カラスのオスを用いて,行動学と内分泌学の両面からの検証を行い以下の知見を得た。 1. 行動実験による検証: 2個体の社会交渉を,3個体(当該2個体+1個体)での数日間の同居経験前後で比較した。3個体からなるグループを設け,個体間の優劣関係を確認した上で,各2個体組み合わせを順次3日間同居させ,攻撃・親和交渉(羽繕い),個体間距離の計測,毎午前中にフンを採取し,これらを3個体同居経験前データとした。同様の手続きを3個体同居期間中も行った。その後,同居経験後として再度同様の手続きを行い,経験前後の比較および3個体同居中の社会交渉と個体間距離の変遷を解析した。結果,3個体同居中,うち2個体が次第に短い個体間距離を維持し高頻度で親和交渉を行うようになった。一方で,残りの1個体は孤立した。親和関係を形成した2個体間のみで,経験前は生起しなかった親和交渉が経験後に高頻度で見られ,個体間距離も短縮した。このことは,3個体同居がオス2個体間の相手限局的な親和関係の形成を促進することを示唆する。 2. 内分泌学による検証: 前述のパラダイムを用い,2個体に親和関係を形成させた。その上で当該2個体を対象に,オス間親和行動の内分泌基盤を行動薬理実験によって検証した。実験ケージ内で2個体による自由交渉場面を設け,交渉前にVT4受容体(メソトシン・バソトシンどちらにも親和性がある)阻害薬を末梢投与した。個体間距離と親和交渉頻度について,優位個体への投与と劣位個体への投与の2条件を設け,それぞれに対する統制条件も含めて比較した。結果,阻害条件のみで,優位は攻撃行動の頻度が生起し,劣位は服従音声表出と逃避行動が生起した。阻害条件では,優位,劣位への投与いずれでも,個体間距離が長くなり,親和交渉が生起しなかった。これらの結果は,非血縁オス間の親和関係へのメソトシン・バソトシン系の関与を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
繁殖成功に直結しない非血縁・同性間の親和関係は,現象として多くの報告があるものの,本来的な反発を抑え親和するという「関係形成」段階に着目した行動・生理学的検証が不足していた。2019年度は,オス2個体間の親和関係形成を促す3個体同居パラダイムを新規に確立し,さらに,オス間の親和関係がVT4受容体を介して維持されている可能性を見出した。これらの研究により,非血縁・オス間の親和のメカニズムの解明を一歩推し進めることができたと考える。この結果には一貫性がみられており,既にサンプル数を十分な数まで増やす段階に入っている。さらに,2019年度からは,オス間親和関係のメカニズムの神経基盤に踏み込むため,神経生理学の技術の体得を始めた。以上の状況を鑑みるに,研究の進捗は概ね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は2つの方向から研究を推進したいと考えている。第一には,オス間親和関係形成とストレス低減の検討である。この点に関しては,2019年度に3個体同居経験前後と3個体同居期間中に既にフンを採取しており,糞中コルチコステロンを計測するためのサンプルは入手済みである。2020度以降は,(1)オス間の互いの同居に対するストレス応答が,3個体同居経験の前後で低減するか (2) 3個体同居期間中,次第に孤立する1個体はストレス応答が上昇するか の2点を検証する。これによって,オス間親和関係形成が当該個体にもたらす生理機能のみならず,除外された第3者の身体に及ぶ変化を合わせて調べることができる。第二には,オス間親和関係の神経基盤の解明である。親和関係形成前,形成後の2条件を設け,親和交渉中の神経活動を測定する。神経活動の測定には,最初期遺伝子による免疫組織学的手法を用いる。併せて,2019年度の行動薬理実験によって関与が示唆されたメソトシン・バソトシン系を中心に,複数のペプチドの局在を調べる。本来の研究計画ではストレス応答の検証にとどまっていたため,2020年度の研究によってそれ以上の知見が得られることが期待できる。
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Research Products
(9 results)