2020 Fiscal Year Annual Research Report
新作物の受容がもたらした生業と食文化の変化:エチオピア南部におけるライコムギ栽培
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19J22713
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
下山 花 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | エチオピア / 生業活動 / 食文化 / ライコムギ / 導入作物の受容 |
Outline of Annual Research Achievements |
感染症拡大のためエチオピアで調査をおこなうことが難しくなり、今年度は、これまでに得られたデータを分析し、論文の執筆に取り組んだ。執筆に取り組んでいる3本の論文のうち、1本は査読から返却され、査読者に指摘された点を加筆修正し再提出した。ほか2本は現在投稿準備をしている。 1本目の論文は、一昨年度に提出した修士論文「導入作物の栽培と利用―エチオピア南部ガモ高地におけるライコムギ栽培」に基づいて、英文雑誌"Economic Botany"(査読付き)に投稿する予定である。ライコムギがガモ高地で受容された要因について、作物の生態学的特徴と農民の文化的嗜好の両側面から検討することを目的としている。 2本目は、英文雑誌"African Study Monographs"(査読付き)にライコムギ導入後の在来のオオムギとコムギ品種の栽培と利用に関する論文を投稿した。現在は査読から返却された論文に、加筆修正して返却を待っている。論文の目的は、高い収量性を有するライコムギの導入後も在来品種の栽培が続けられている諸要因を生業と食文化の分析を通じて明らかにすることにある。新作物や改良品種の導入後も、在来品種の栽培が続けられてきた現象は、栽培体系や嗜好性に合っているという文化的な選択と、冷涼な高地の栽培環境や不安定な降雨の条件下においても短い期間で収穫できる生態学的な選択、高い市場価値を付与されているという経済的選択として理解することができると結論づけた。 現在は、雑誌『農耕の技術と文化』の食文化特集に投稿する論文の執筆をすすめている。ガモ高地で多様な食文化が実現し維持されていることと、その食文化がどのように形成されてきたのかについて、2017年から2020年におこなった計15か月の現地調査で得られたデータを基に考察をおこなう予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本来であれば、エチオピアに2020年6月から2021年2月にかけて計9か月間の現地調査をおこない、畑の作付け状況を記録し、昨年のデータと照らし合わせながら調査地の輪作体系を明らかにする予定であった。また、古老50人に対してライコムギ導入当時の生業や食文化に関する聞き取り調査をおこない、当時の様子を検討する予定だった。 現地調査をおこなう代わりに、本年度は、2019年9月から2020年3月におこなった現地調査で得られたデータの整理と分析、発信に主体的に取り組んできた。しかし、成果発表に取り組めたことを考慮しても、予定していた長期の現地調査をおこなえなかったため、研究が「やや遅れている」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ感染症の影響で、予定していたエチオピアへの渡航や国際学会での口頭発表の見通しが立たない。 現地調査を文献調査に切り替え、日本で文献調査をおこなう予定である。ライコムギ導入以前のガモ高地の生業や食生活を明らかにすることを目的に、栽培植物の伝播に関する考古学資料や民族誌の記述を整理する。そして、アフリカにおけるライコムギの栽培と利用に関する文献を整理し、比較することを通して、本研究の対象にするエチオピアにおけるライコムギ栽培と利用の特徴をさらに明らかにする。 これまでの現地調査で収集したデータを整理、考察し、博士論文を執筆する。
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