2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J22788
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
富田 紗穂子 名古屋工業大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 微生物ロドプシン / レチナール / 赤外分光解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、赤外分光測定を中心とした様々な分析手法を駆使し、これまでに研究されてきた典型的なロドプシンとは本質的に異なる未解明な分子機構を明らかにすることを目的としている。本年度の研究成果の概要を以下に記述する。 AntRとは、昨年度本研究室から発表されたシゾロドプシン(SzR)と近縁なロドプシンである。SzRと同様に内向きプロトンポンプ機能を持つ。カナダのグエルフ大学との共同研究として、短期滞在した博士後期課程の外国人学生と共に研究を遂行した。赤外分光スペクトル解析やHPLCより得られたデータから読み取れる光反応中の構造変化情報について共同研究者と共に議論し、AntRのデータをJ. Phys. Chem. B.に発表した。 48C12はメタゲノム解析から発見されたロドプシンで、アミノ酸配列が既知のどのロドプシンとも相同性が低い。この48C12の同位体標識試料について、質量分析測定による、試料の同位体標識効率の評価を試みた。多くの条件検討の末、当研究室史上初めて膜タンパク質の質量分析測定から試料の同位体標識効率の算出に成功した。この結果から48C12の初期中間体形成時の光反応構造変化の独自性について示唆を与えることができた。これらの研究成果に関する論文は現在投稿中である。 KR2とは初めて発見されたナトリウムイオンポンプ型ロドプシンである。KR2のフィルム試料は、乾燥するとその吸収波長が長波長シフトする。紫外可視吸収スペクトルやラマン散乱スペクトルの解析より、水和量の変化によってレチナール発色団やその周辺の構造変化を明らかにしその構造変化モデルを構築した。これらの結果について、現在論文投稿準備の最終段階にある。 さらに、KR2の光反応サイクル中の構造変化についてより詳しく調べるために時間分解赤外分光測定も継続して行っている。特に、高波数領域の測定に新たに着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までにAntRの低温赤外スペクトル解析やHPLCから光反応分子機構を明らかにし共同研究成果として論文に発表できた。また、ヘリオロドプシン48C12について、同位体標識試料の赤外分光測定も行い、いくつかのバンドの帰属に成功した。同位体シフトが明瞭に観測されなかったものについては、ガウシアンフィッティング解析や質量分析による同位体標識効率評価を行った。質量分析測定についてはその条件検討から行い、48C12の光反応機構の独自性を明らかにした。その研究成果は論文として投稿中である。 KR2の水和フィルムと乾燥フィルムにおいて変化する水素面外変角振動 (HOOP)バンドを、同位体標識試料を精製して用いることで帰属した。また、水和フィルムと乾燥フィルムの紫外可視吸収スペクトルについてバンドフィッティング解析を行い、波長成分を分離することで水和時と乾燥時の構造変化について考察を深めた。グリセロール水を用いてフィルム試料の水和量を正確に制御することで、乾燥フィルムのみで観測される波長成分についてより定性的・定量的に解析を行った。これらの研究成果については論文投稿の最終準備段階にある。 同時に、時間分解赤外分光測定も積極的に行っており、様々な測定条件での時分割スペクトルのSVD解析やグローバルフィッティング解析を行った。これにより、ナトリウム、リチウム、プロトン輸送時の構造変化の違いを見出した。その中でもレチナール由来のバンドに着目し、レチナールの同位体試料の測定から、水素面外変角振動(HOOP)バンドの帰属に成功した。タンパク質の同位体標識試料やアミノ酸変異体を用いることで複数の赤外バンドの帰属に成功し、これらの結果を総合して、KR2の光反応メカニズムモデルを構築した。これらの研究成果についても論文投稿の準備をしている。 このように研究は期待通り進展しており、今年度も引き続き継続していく。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに行ってきた実験結果をまとめ、論文作成と投稿作業に力を入れる。まだ投稿ができていない、KR2の乾燥フィルムにおける最大吸収波長の長波長シフトメカニズム解析に関する研究について、より定性的・定量的な解析を追加する。グリセロール水を用いて正確に水和量を制御し、乾燥フィルムの紫外可視吸収スペクトルで観測された、長波長成分と短波長成分に対して物理化学的な解析を深める。波長成分の性質を詳細に明らかにすることで論文の学術的価値を高める予定である。 また、KR2の時間分解赤外分光測定については、これまでに蓄積してきた低波数領域のスペクトル解析から、その光反応サイクル中に起こす構造変化やナトリウムイオン輸送モデルを構築した。同位体やアミノ酸変異体のスペクトル解析より、複数のバンドの帰属に成功し、光反応サイクル中にナトリウムイオンが相互作用するアミノ酸を特定した。より詳細に中間体の時定数解析を行い、研究室内外の有識者とのディスカッションを重ね、より詳細なナトリウムイオン輸送モデル提唱に向け、論文投稿の準備段階にある。 また、低波数領域の時間分解赤外分光測定だけではKR2のナトリウムイオン放出機構を解明することができなかった。このことから、高波数領域の時間分解赤外分光測定に新たに着手する予定である。これまでに、低温赤外分光測定では重水を使って、高波数領域にタンパク質内部の親水的な領域由来のシグナルを疎水的な領域のシグナルから抽出して観測することに成功してきた。これを室温での時間分解赤外分光測定にも応用し、同位体やアミノ酸変異体を組み合わせることで、ナトリウムイオンの輸送メカニズムの全容を明らかにできると考えている。既に野生型の測定を開始しており、いくつかのバンド検出には成功している。 以上のような計画により、新たなオプトジェネティクスツール開発に向けて有意義な知見を得たい。
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