2020 Fiscal Year Annual Research Report
ローマ属州ガリアにおける行政機構の研究:田園地帯の小規模共同体の行政研究を中心に
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19J22843
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小川 潤 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ローマ史 / ガリア / 政治空間 / 都市 / 属州 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度はまず、前年度のガリア・ナルボネンシス属州の研究を踏まえ、ガリア北部、およびヒスパニアにおけるウィクス・パグス関連史料の収集、検討に取り組んだ。またガリア北部に関しては、特定の部族や地域を扱う地域史の文脈においてウィクスやパグスに焦点を当てる先行研究が比較的豊富に存在するため、それら既存研究の把握にも努めた。 上記のガリア北部、ヒスパニアにおける関連史料の中でとくに詳細に検討したのが、ヒスパニアにおけるパグスの実態をかなり詳細に伝える「アゴン青銅板」である。現スペイン・サラゴサ近郊で発見されたハドリアヌス帝期のこの碑文は、パグスのマギステルについて、その選出方法や権限、住民や属州総督との関係を伝えるとともに、パグスにおいて開催された政治集会の存在を明らかにするなど、非常に示唆に富む。ヒスパニアでは他にも、パグスの住人が関わった土地紛争に関連すると思われる碑文等も出土しており、「アゴン青銅板」やそれら碑文の検討を通して、ローマ帝国下におけるパグスが、高い自律性を有する政治共同体として機能していたという仮説を補強することができた。 他方、年度の後半には、ウィクス・パグスというミクロな政治空間についてのこれまでの研究を踏まえて、これらの共同体も含む属州における政治空間の全体像に関心を抱くようになり、部族や都市、あるいはガリアやヒスパニアといった地域全体の政治的コミュニケーションへと視野が拡大した。そのため、再びガリアを対象として、ローマ支配以前に遡ってガリアの人々の政治空間認識や政治的コミュニケーションの在りようを明らかにすべく、史料の検討を進めた。その中にはむろん、パグスヤウィクスへの言及も含まれており、これまでの研究とも接続しつつ、より包括的な視点からローマ帝国の属州統治、属州における政治空間の研究を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね従来の予定通り、ガリアやヒスパニアにおけるウィクス・パグス関連の碑文史料検討を進めることができた。その成果を2020年度中に発表することは叶わなかったが、準備を進める。他方、年度後半には研究の視野が拡大したこともあり、研究計画全体の軌道修正を迫られたことも否み難い。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、これまでの研究を踏まえつつ、都市や部族、ガリアという地域全体における政治空間について研究する。この、「政治空間としてのガリア」という論点をめぐっては、19世紀以来の先行研究の蓄積があるため、そうした研究史の大きな流れを踏まえつつ、個別の論点についての研究を進めていく。
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