2019 Fiscal Year Annual Research Report
学校世界と職業世界の接続点:大卒労働市場における企業の採用に関する実証的研究
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19J22898
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 航 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 新卒採用 / 大卒労働市場 / 組織 / 日本企業 / ジェンダー不平等 / ワークライフバランス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,日本企業の新規大卒者採用において生じる就職機会の不平等について,その要因及び生成メカニズムを解明することである.この目的を達成するため,(1)不平等に影響を与える企業組織要因の特定,(2)企業組織要因の背景にある理解や実践の解明,という2つの検討課題を設定している.本年度は課題(1),とくに新卒採用のジェンダー不平等をもたらす組織要因の検討を行った. まず,修士論文の成果について,その一部をブラッシュアップし,企業の経営状況と女性採用の関連を再検討した.その結果,日本国内の大企業について,企業の経営状況が悪くなると,新卒採用における女性比率も低下する傾向にあることが確認された.この成果については,国際学会で報告を行った. 次に,上記の分析を発展させ,企業内の制度が新卒採用のジェンダー不平等に与える効果が,企業の経営状況によってどのように変化しているかを検討した.(a)この準備段階として,ワークライフバランス(WLB)改善に向けた企業の制度・取り組みの効果について計量分析を行った.その結果,WLB充実企業として認定を受けると,WLB改善に向けた努力が部分的に鈍化する傾向が確認された.この結果は,国内学会で報告を行った.(b)次に,WLB制度が新卒採用に与える効果と,企業の経営状況との関連を検討した.多変量解析の結果,WLB制度が女性の採用比率に与える効果は,企業の経営状況に依存して変化していることが明らかになった.この成果については,論文にまとめ投稿し,現在審査を受けている段階である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,企業パネルデータの計量分析から,ジェンダーおよび学校歴に基づく就職機会の不平等を規定する企業組織要因を解明する予定であった. このうち,ジェンダー不平等については,予想していた以上の成果をあげることができた.まず,ジェンダー不平等を生み出す企業組織要因として,企業の経営状況が寄与していることを解明できた.さらに,上記成果の学会発表時にいただいたコメントなどを踏まえ,企業の経営状況はそれ自体が不平等に影響するだけでなく,企業内の制度・権力関係の効果も変化させることで,ジェンダー不平等に複合的な影響をもたらしているのではないかという着想にいたった.この着想を分析に応用する際には,本年度に参加したICPSR Summer Programで得た知見,とくにカテゴリカルデータを従属変数とする分析手法とその解釈に関わる知識が,きわめて有用であった.こうした知識を生かして,年度後半には新たな計量分析に取り組んだ.その結果,企業の経営状況が企業内制度の効果を変化させることで,ジェンダー不平等の拡大につながる可能性が示された.これは,単なる企業組織要因の特定にとどまらず,それがジェンダー不平等につながるメカニズムの解明にも寄与する点で,年度当初に想定していた以上の成果であった. 一方で学校歴については,予想より進捗が遅れ,今年度のうちに具体的な研究成果に結びつけることができなかった.ただし今年度の終盤には,新卒採用における学校歴間格差を生み出す企業組織要因の特定作業に着手しており,その成果は,来年度前半に学会発表や投稿論文の形にまとめることができると考えている. こうした研究進捗を踏まえ,現段階での達成度は「おおむね順調に進展している」とした.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はジェンダー間の不平等に着目して,企業組織要因の特定と,それが不平等に影響するメカニズムの解明を行った.来年度は,学校歴間の就職機会差を生み出す企業組織のメカニズムについて,企業パネルデータの計量分析から検討していく.さらに,個人を対象とする社会調査データの計量分析から,現代日本の大卒労働市場においていかなる就職機会の不平等が観察されるかについても,並行して検討を進めていく予定である. 2点目の検討課題である,企業組織要因の背景にある理解や実践の解明について,その一部は本年度の計量分析によってすでに達成されている.これについては,新たな企業データを用いた計量分析や,企業の採用担当者に対するインタビュー調査など,いくつかの方法を模索しながら検討を進めていくことを考えている.
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Research Products
(2 results)