2019 Fiscal Year Annual Research Report
教育における水平的差異が生じさせる格差の生成メカニズムに関する研究
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19J22903
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
成澤 雅寛 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 職業学科 / 教育機会の不平等 / 就業機会の不平等 / 世代間社会移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、経済的不平等などの出身上の差異がもたらす教育機会の不平等・就業機会の不平等の実証とそれらが生じるメカニズムを、教育における水平的差異(どの教育段階まで進学することができるかではなく、どのような教育を受けるのかの違い)に着目して明らかにすることであった。そこで、本年度は、【1】教育における水平的差異についての文献を収集、【2】世代間社会移動についての文献を収集、【3】日本で行われた調査の合併データを用いて分析を行う予定であった。それに対して、本年は、予定通り、【1】【2】【3】を行った。【1】の成果は、本研究の課題が新規性のある重要な視点であることを再確認した点にある。教育が幅広く普及されている先進諸国においては、どのような教育を受けるかという教育の質が教育機会および就業機会の不平等に大きな影響を与えることが数多くの研究で確認されている。さらに、本研究課題は、これらの研究で注目されていない後期中等教育の水平的差異に着目し、それがその後の就業機会の不平等において大きな影響を与えることを示している点で新しい点であることを確認した。他方、【2】の成果は、世代間社会移動のパターンが先進諸国において類似していることを確認し、さらにそれが教育の水平的差異とどのように関連しているのかについてはまだ明らかにされていないことを確認した点にある。最後に、本年は、これらの文献収集の成果を踏まえ、日本で行われた調査の合併データ「Social Stratification and Social Mobility(SSM)」を用いた分析を行い、世代間社会移動に教育の水平的差異が大きな影響を及ぼしていることを明らかにした【3】。普通科と職業学科の選択には、親が就いている職業が大きく影響し、さらにそれが就業機会の不平等を生み出していることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、教育における水平的差異についての文献を収集および世代間社会移動についての文献を収集したうえで、日本で行われた調査の合併データを用いて分析を行う予定であった。そのため、【1】7月16日から19日にオランダで行われた国際学会ICAS11にて報告し、意見交換を行い、さらに【2】7月22日から8月16日にアメリカで行われた統計セミナーICPSR Summer Programに参加し、分析手法の理解を深めた。【1】の成果は、本研究の問題意識の有効性と本研究課題を国際的な視点に広げることの困難を認識できた点にある。本研究の主眼点である教育の水平的差異が世代間社会移動とどのように関連しているのかについては国際的にも有用な問題意識であると考えられた。しかしその一方で、教育の水平的差異を各国の教育制度を踏まえてどのように分析できるのかが検討課題としてでてきた。この点については、今後の検討課題となる。つぎに、【2】の成果は、本研究課題において主に用いられるカテゴリカルアナリシスの分析手法の講義を受け、基礎から応用まで本研究課題を明らかにするために有用な統計手法を学んだことにある。先進的なアメリカにおいて手法の理解を深めたことで、分析の解釈の幅が深まったと言える。以上のように、本年度は、文献収集のみならず、学会での意見交換および分析手法の理解を深めたうえで分析に着手でき、概ね順調に進んでいると考えられる。しかしその一方で、本年度中にその成果を論文という形で発表することができなかった。先述したように、本研究は、国際的にも有用な問題意識であると考えられるため、国際的な学会誌への投稿が望ましいと考えられた。そのため、論文の英語化に着手したものの、本年度には間に合わなかった。これらの点を踏まえ、本研究は、「概ね順調に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、経済的不平等などの出身上の差異がもたらす教育機会の不平等・就業機会の不平等の実証に注力した。具体的には、普通科と職業学科の選択には、親が就いている職業が大きく影響し、さらにそれが就業機会の不平等を生み出していることを示した。それに対して、次年度は、ひきつづき不平等の分析を深めながら、さらに教育機会の不平等・就業機会の不平等が生じるメカニズムの解明に着手したいと考えている。具体的には、ひきつづき文献収集を行いながら、前年度の成果を論文として発表し、新たな調査(インタビュー調査)に着手する。研究を深めていく中で、インタビュー調査法は、教育機会の不平等・就業機会の不平等が生じるメカニズムを検討するうえで有用な手段であると考えるようになった。そこで、今後はインタビュー調査を行い、教育機会の不平等・就業機会の不平等が生じるメカニズムの検討に移行する。最終的には、その結果を国内の学会で発表することを目標とする。
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