2019 Fiscal Year Annual Research Report
エイズウイルスとヒトの共進化が規定するウイルス流行伝播メカニズムの解明
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19J22914
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
今野 順介 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | エイズウイルス / 流行伝播 / メカニズムの解明 / 共進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
HIV-1の出芽は、ウイルスタンパク質であるGagのp6ドメインに存在するふたつのモチーフ(PTAP、YP)を介して独立に行われる。モチーフのひとつであるYPは、細胞のESCRTタンパク質の1つであるALIXを介して出芽する。世界で流行するHIV-1は、11のサブタイプに分類され、その約半数は、主にアフリカで流行しているサブタイプCが占める。一方、主に先進国で流行するウイルスはサブタイプBであり、詳細な分子ウイルス学的解析は、このサブタイプBを基に実施されてきた。しかしながら、世界的流行株であるサブタイプCが同様な機序で出芽しているかについて、詳しい解析はなされていない。そこで本研究では、流行規模とウイルスの出芽メカニズムの関連について、学際研究により解析を行なった。 公共データベース解析により、サブタイプCのウイルスの多くは、YPモチーフを欠損していることを見出した。また、YPモチーフを欠損するサブタイプCのGag p6ドメインは、ALIXとは結合しないことを明らかにした。そして、サブタイプBのウイルスはALIXを介した出芽をすることができるが、YPモチーフを持たないサブタイプCは、それができないことを明らかにした。 サブタイプBの研究においてALIXは1アミノ酸変異によって、YPモチーフを介した出芽促進活性が失われることが知られている 。ALIXを介する出芽ができないことから、アフリカ人はALIX遺伝子に特徴的な変異を持つため、ALIXを介する出芽ができない、という仮説を立て検証した。その結果、公共データベース解析によりアフリカ人はALIX遺伝子に特徴的な変異を持つことを明らかにしたが、培養細胞を用いた実験の結果、YPモチーフを持つ株はこのALIXを介する出芽を行えることが明らかとなった。これらのことから、他の要因によりサブタイプCはYPモチーフを失ったとが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
公共データベース解析により、サブタイプCのウイルスの多くは、YPモチーフを欠損していることを見出した。また、in vitro pull-down法より、YPモチーフを欠損するサブタイプCのGag p6ドメインは、ALIXとは結合しないことを明らかにした。そして、培養細胞を用いた分子ウイルス学実験の結果、サブタイプBのウイルスはALIXを介した出芽をすることができるが、YPモチーフを持たないサブタイプCは、それができないことを明らかにした。 ヒト1塩基多型の公共データベースを用いて解析した結果、アフリカ人に特異的なALIX変異体(多型ALIX)の存在を見出した。サブタイプCなどのアフリカで流行する株は、多型ALIXを介する出芽が行えないために、YPモチーフを保有している必要性がなく、それを失った可能性を検証し、培養細胞を用いた分子ウイルス学実験の結果、YPモチーフを持つ株は多型ALIXを介する出芽を行えることが明らかとなった。 サブタイプCのp6ドメインとALIXが結合しないこと、および、培養細胞からの出芽過程においてもALIXを利用できないことからも、サブタイプCのウイルスがALIXを介する出芽ができないことが強く示唆された。多形ALIXを介する出芽を行えることから、他の要因によりサブタイプCはYPモチーフを失ったと考えられる。 上記の結果を示したことから、本年度の目標を十分に達成したと考える
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究結果より多型ALIXがサブタイプCのYPモチーフを失った要因ではなく、他の要因によりYPモチーフを失ったと考えられる。 YPモチーフを持たないサブタイプCの特徴をさらに検討するために、p6領域に注目し、データベース解析を行った。その結果、サブタイプCには、PTAPモチーフをふたつ有している株が存在すること、そして、その株があるアフリカ人患者の体内で優位に増殖していることをそれぞれ見出している。これらことから、サブタイプCが世界的流行に繋がった理由として、「多型ALIXの存在ではなく、他の要因によってYPモチーフを失った可能性、および、新たにPTAPモチーフを獲得することで適応進化した」という仮説を立てた。この仮説を検証すること研究目的とし以下の研究計画を遂行する。 1.アフリカでの流行において、YPを失った原因について解析する。 2.PTAPモチーフ獲得のウイルス学的意義の解析する。 3.生体内におけるPTAPモチーフ・YPモチーフの機能を調べるため、ヒト化マウスによるウイルス出芽能の解析を実施する。
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