2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J23143
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
徳永 彩子 青山学院大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | フォトクロミズム / 三重項-三重項消滅 / レーザーフラッシュフォトリシス / ビラジカル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、インコヒーレントな赤色連続光で駆動する非線形応答性フォトクロミック分子を創出することを目的としている。一年目は、「三重項-三重項消滅アップコンバージョン機構に基づく赤色応答分子システムの構築」に関する研究に着手し、三重項増感剤の存在下で赤色光応答を示すフォトクロミック分子系の確立に成功した。 長波長の光を短波長の光に変換する技術であるフォトンアップコンバージョン(PUC)のうち、三重項-三重項消滅(TTA)機構に基づくPUCは他の機構のものよりも比較的低強度の励起光によって誘起できることが知られている。TTAでは、三重項増感剤としてはたらくドナー分子からのエネルギー移動によりアクセプター分子の励起三重項状態が生成する。その後、励起三重項状態のアクセプター分子同士が衝突することで、励起一重項状態のアクセプター分子が生成し、発光を示す。本研究者は、HABI型フォトクロミックにアクセプター部位を導入することで、赤色光照射によってTTAを経由してフォトクロミック分子の励起一重項状態を生成し、光化学反応を誘起できるのではないか、という着想に至った。実際に、本研究者は適切なアクセプター部位を有するフォトクロミック分子を設計・合成し、三重項増感剤存在下で赤色光照射によって新規分子がフォトクロミック反応を示すことをレーザーフラッシュフォトリシス測定によって明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、可視光に応答して吸収スペクトル浅色シフトを示す「逆フォトクロミック分子」を用いて、光強度に対して非線形的な応答を示す分子を開発する方針であった。しかし、上記の研究実績の概要でも述べたように、従来はフォトンアップコンバージョンを達成するために用いられてきた三重項-三重項消滅機構を用いてフォトクロミック反応を誘起するというアイディアを得たため、本年度はその実現化と詳細な検討を行い、学会発表および論文執筆を行なうことができた。 初年度の段階で、当初の計画とは異なるものの、研究題目に沿った研究テーマの立ち上げおよび論文化が達成できたため、おおむね順調に研究が進展しているものと思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度におこなった「三重項-三重項消滅アップコンバージョン機構に基づく赤色応答分子システムの開発」においては、赤色光に応答するフォトクロミック分子系を開発できたというだけでなく、TTAによって生じた励起一重項状態のエネルギーを発光・再吸収の過程を経ることなく光化学反応に直接利用できたということに意義を見出すことができた。また、HABI型のフォトクロミック分子は励起三重項状態から光反応を生じないために、三重項-三重項消滅を利用した光応答系を構成する上で他のフォトクロミック分子よりも適していることが示唆された。 二年度目では、三重項-三重項消滅が分子内で生じることで光反応を起こす新たな現象を見出すため、三重項増感のアクセプターとなる分子骨格を分子内に二つ導入した新規フォトクロミック分子の設計および合成を行い、その光化学特性を各種分光測定によって評価する。初めに、上述した研究で用いたドナー分子とアクセプター分子の組み合わせを用いて、新規分子を設計・合成し、光化学特性を評価する予定である。
|