2019 Fiscal Year Annual Research Report
高効率可視光水分解を目指した酸ハロゲン化物光触媒のバルク及び表面特性制御法の開発
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19J23357
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小川 幹太 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | エネルギー / 人工光合成 / 光触媒 / 水分解 / 水素 / PEC |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、Bi系層状酸ハロゲン化物は、水分解に適したバンド位置と可視光応答性および、光照射下での安定性をも有することから新規光触媒材料群として大いに期待されている。本研究では、そのキャリアダイナミクスを明らかにした。一分子蛍光イメージング、時間分解可視-中赤外過渡吸収分光測定、時間分解マイクロ波伝導度測定等、最先端の分光技術と各種実験、DFT計算を組み合わせることで、層状の結晶構造に起因する異方的なキャリア移動が電荷分離を促進していることが明らかとなった。さらに結晶端に電子が集積することを利用し、電荷を捕捉しH+の還元サイトとなる助触媒を結晶端に位置選択的に担持することで、空間的に分離された自由電子を効率よく反応に利用することが可能となり、本光触媒を用いる高効率可視光H2生成反応を世界で初めて実証した。 また、光電気化学(PEC)システムにおける光電極の新規調製法の開発にも成功した。PECシステムにおいては、その光電極の調製法がPEC性能を大きく左右する。特に、半導体粒子と基板の良好な接触が期待できる基板上への直接合成が望ましい。しかし、水熱合成法を代表とするそのような直接合成法は、比較的構成元素の少ない物質に限定されていた。本研究では、多元素で構成される物質も合成可能なフラックス法を、電極の直接合成に応用することに初めて成功した。ターゲット物質としては、同じく層状酸ハロゲン化物の一つを選択した。導電性基板に原料の一部をシードレイヤーとして塗布し、この上でフラックス合成を行うことで、基板上で目的物の結晶成長が起こり、光電極の直接合成に成功した。この光電極は、粒子と基板間の接触が良好であり、従来法で作成した電極よりも高いPEC性能を示した。さらに、この電極調製法では比較的容易に、膜厚等の物性を制御できることも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
最新の分光法およびDFT計算を駆使することで、Bi系層状酸ハロゲン化物のキャリアダイナミクスを詳細に明らかにすることができた。申請書においては、結晶面が電荷分離の駆動力と考えていたが、研究の進展に伴い、層状の結晶構造に起因する異方的なキャリア移動が電荷分離を促進していることが明らかとなった。近年、半導体光触媒中の電荷分離が大きな着目を集める中で、本研究は異方的なキャリア移動の重要性を示しただけでなく、結晶構造との関連を論じ、さらにこの異方性を生かした光触媒活性の向上を達成したという点において、半導体光触媒におけるキャリア移動の理解と今後の設計指針の基礎となり得るものであると考えている。 また新規電極調整法の開発は、当初の研究計画にはなかったものの、これまでに開発した層状酸ハロゲン化物の効果的な粉末合成法であるフラックス合成法を、電極調製も応用したものである。フラックス合成法は、層状酸ハロゲン化物だけでなく、様々な光触媒(酸化物、(酸)窒化物、(酸)硫化物)についても粉末合成が報告され、その有効性が示されている。本研究は、層状酸ハロゲン化物に限らず、他の幅広い物質に応用可能であると考えられ、今後のPEC系の発展に大きく寄与するものである考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、層状酸ハロゲン化物の可能性を広げるだけでなく、半導体を用いる光エネルギー変換系の最重要課題である電荷分離に対し、新たな戦略を与えるものであると言える。そこでBi系層状酸ハロゲン化物のキャリアダイナミクスに関して、さらに詳細に研究を行う。一粒子上での反応観察を行うことで、電子、正孔のダイナミクスを観察することを目指す。また、さらに精密なDFT計算を行うことを目指す。本物質は、単位格子あたりの原子数も多く複雑であることから、DFT計算においてどのようなファクターが重要であるか明らかになっていない。分子間力や相関交換関数、スピン軌道相互作用の影響を考慮するとともにDFT+U計算を行う。また、結晶構造とキャリアダイナミクスの関係を明らかにするために、他の層状酸ハロゲン化物のキャリアダイナミクスを明らかにすることも目指す。また、様々な物質のDFT計算を行うことで、新規光触媒の探索、開発も行う。 また、電極調製に関しては、層状酸ハロゲン化物に限らず、他の幅広い物質に応用可能であると考えられ、今後のPEC系の発展に大きく寄与するものであると言える。そこで、層状酸ハロゲン化物だけでなく(酸)窒化物、(酸)硫化物への応用を目指す。加えて、シードレーヤーの形状や量を制御することによって、電極のモルフォロジー制御を行い、そのPEC特性向上を目指す。
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