2020 Fiscal Year Annual Research Report
エステル転位反応を起点とする芳香族化合物の網羅的合成法と触媒開発
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19J23358
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大北 俊将 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 芳香族エステル / パラジウム触媒 / ホスフィン配位子 / 置換基転位反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
最小機能単位である「分子」をつなぐ方法として、これまで数多くの手法が開発されてきた。その中でも、2010年にノーベル化学賞を受賞したクロスカップリング法は、医薬品や有機電子材料の合成などにも頻用される分子構築法である。近年では、従来用いられてきた芳香族ハロゲン化物の使用を避けた、低環境負荷なアリール化剤を用いる改良カップリング法が盛んに開発されている。当研究室では安価かつ入手容易な次世代型アリール化剤として芳香族フェニルエステルの脱カルボニルを伴うクロスカップリング反応を発見してきたが、その開発途中でエステル基が芳香環上を移動する転位反応を見いだした。エステル転位とクロスカップリング反応が連続的に進行する触媒系を開発できれば、一種類のエステルから幾多の化合物を網羅的に合成可能となる。本研究では、この非線型変換の実現を目指し、現状の最適リン配位子であるdcypt[3,4-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)チオフェン]の構造を改変した新規配位子の設計に取り組んでいる。2020年度はエステル基が芳香環を1つ移動する1,2-転位の自在制御を目的とした非対称配位子として、電子供与性の高いリン原子と電子供与性のやや低い窒素原子をそれぞれ配位にもつP,N配位子の合成に着手した。その結果、チオフェンを母骨格とするP,N配位子を合成することに成功した。また、既知の手法でベンゼン環を主骨格とする類似のP,N配位子を合成した。これら配位子をエステル転位反応に適用したが、エステル基が転位した化合物は得られなかった。今後は合成した配位子の他の遷移金属触媒への適用も検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では2020年度中に1,2-エステル転位活性を有する非対称配位子を開発し、その構造最適化と反応条件の微調整を行う予定であった。ただしP,N配位子合成において、チオフェン環の窒素官能基化の検討に時間を要した。π電子過剰系ヘテロ芳香環であるチオフェン環は、単純芳香環であるベンゼン環と比べて電子密度が高い。そのためハロベンゼン類の修飾に用いられる求核置換反応や、パラジウム触媒によるBuchwald-Hartwigアミノ化が、ハロチオフェンへの窒素官能基導入にほとんど適用できなかった。最終的に様々なアミノ化条件を検討し、P,N配位子を合成することができた。またモデル化合物での検討にはなるが、求電子的アミノ化によるブロモチオフェンへの窒素原子導入にも成功した。2020年度で合成した配位子の種類は十分でなかったが、見いだしたこれらの合成手法を用いれば今後、多様なP,N配位子が調製可能である。以上のことから、本研究課題はやや遅れているものの研究計画に大きな支障はないと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年度から継続して1,2-エステル転位の反応性向上や適用範囲の拡張を目指した非対称配位子の設計を行う。昨年度に合成したP,N配位子はエステル転位に適用できなかったことから、配位能が不十分であると示唆された。この解決策として今年度は、シクロへキシル基などの電子豊富なアルキル置換基を窒素原子上に有する改良配位子を設計する。昨年度に見いだした反応条件を用いることで、ブロモチオフェン誘導体に窒素原子を導入できると考えている。また、新たな非対称配位子として一分子に異なるホスフィン部位をもつ二座リン配位子の合成も計画している。これら実験化学的な最適配位子探索と並行して、DFT計算などの量子化学計算による配位子の電子状態の予測を行い、双方からのアプローチで円滑に触媒設計を進めたい。
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Research Products
(2 results)