2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19J23439
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新井 一功 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 酸水素化物 / ガラス |
Outline of Annual Research Achievements |
前駆体となる酸化物ガラスとして、結晶性酸水素化物で報告のあるチタンやバナジウムを含むBaTi2O5やSiO2-TiO2、V2O5-P2O5ガラスを選択した。BaTi2O5ガラスは無容器溶融法にて合成したものを提供していただいた。SiO2-TiO2ガラスはゾルゲル法にて合成し、V2O5-P2O5ガラスは溶融法にて合成した。各前駆体はX線回折測定からアモルファス状態であることを確認し、蛍光X線分析で各元素が固溶していることを確認した。 BaTi2O5と水素源の水素化カルシウムをモル比で1:2で混合し、真空封管したガラスアンプルの中で反応させると、黒色の粉末を得た。これをNH4Cl/MeOH溶液中で洗浄し、試料を回収した。得られた試料をX線回折測定で結晶性を確認すると、おおむねアモルファス状態であったが、わずかにBaTiO3の結晶性ピークが析出していた。熱重量分析-質量分析によって酸素雰囲気下で加熱すると、質量増加が確認された。しかしながら、質量増加に伴う水素の放出は確認されなかった。水素放出のない質量増加から、黒色への変化はおそらく欠損が生じたと考えられる。 SiO2-TiO2とV2O5-P2O5ガラスにおいても上記一連の合成、解析を行うと、いずれにおいても反応前後で色の変化は確認されたものの、完全にアモルファス状態を維持することはできず、わずかに結晶化していた。また、熱重量分析によっていずれのガラスも質量増加は確認されたものの水素放出は確認されず、欠損が生じたのみであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の年次計画では、1年目で酸水素化物ガラスの合成に成功することを予定していた。しかしながら、水素化物との反応による試料の結晶化を抑制することが想定よりも困難であった。反応条件や反応時間を温和にすることでガラスの結晶化の抑制を試み、結晶化を低減させることはできたが、完全に防ぐことはできなかった。 また、水素化物との反応による水素置換も難航している。反応前後で試料の色が変化することから、何かしらの反応が起こっていることは推測できるが、質量分析の結果から水素の導入は行われず、欠損が導入されるだけであった。しかしこれは当初予期していなかった反応であるが、欠損の導入はガラス中に含まれる遷移金属の価数を変化していることが示唆される。この観点から、電気伝導性の向上や磁性の発現などに期待ができ、今後これらの物性に関しても調べていく。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは水素化物に水素化カルシウムのみを使用していたので、水素化リチウムや水素化カリウムなどを試していき、最適な水素化物を探索する。また、これまでとは違う方針で酸水素化物ガラスの合成を試みる。これまでは、あらかじめ合成した酸化物ガラスを水素化物と反応させることで、酸水素化物ガラスの合成に挑戦してきた。今後は、ナトリウム―シリカゲルを水素雰囲気で加熱することで酸水素化物ガラスの合成を試みる。ナトリウム―シリカゲルとは、ケイ酸ガラスにナトリウムをドープさせたものでアモルファス状の物質である。ナトリウム―シリカゲル中の一部のナトリウムは原子核と電子が分離した状態、すなわちエレクトライド状態であることが報告されている。エレクトライドは構造中に孤立した電子が存在しており、水素を多量に取り込みことが可能である。そのため、このナトリウム―シリカゲルも水素を取り込む可能性が大いにある。 また、酸水素化物ガラスの合成に失敗したガラスにおいて、アンモニア気流下での焼成による窒素化や、ポリテトラフルオロエチレンとのフッ化などを試していき、新規機能性複合アニオン酸化物ガラスの合成を行う。合成に成功した試料には、磁化率測定や抵抗率測定、比熱測定など基礎物性測定を行い、適当な応用先を検討する。
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