2020 Fiscal Year Annual Research Report
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19J23441
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 駿志 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 概日リズム / シロイヌナズナ / 単一細胞(シングルセル)レベル / プロトプラスト / 発光モニタリング / 細胞自律性 / 器官特異性(葉と根) / 細胞時計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では単離単一細胞の概日リズム解析を用いることで、①外部刺激による単一細胞時計の調節機構、②細胞間における時間情報伝達機構を明らかにする。上記二点を明らかにすることで、各細胞時計の時間情報を統合することによる、植物個体としての環境変動への適応機構を解明することを目指している。 概日時計は、大半の生物が有する日周や季節などの周期的な環境変化に適応する機構である。植物の概日時計は個々の細胞が自律的に機能すると考えられてきたため、多くの報告は植物体を研究単位としていた。近年、器官・組織レベルの解析によって、維管束から葉肉細胞、茎頂から根などの他の機関への時間情報の伝達が報告された。しかし、時間情報の伝達機構は不明な点が多いため、より詳細なレベルの解析が必要である。 パーティクルボンバードメント法を用いて概日発現発光レポーター遺伝子を植物体に一過的に導入することで、葉において原形質連絡を介した組織・細胞間の物質連絡により細胞時計が制御されている可能性が考えられた。細胞時計に対する細胞間相互作用の影響を正確に評価するために単離した単一細胞の概日リズム解析が求められている。 令和2年度は、①外部刺激による単一細胞時計の調節機構を明らかにするために、「恒常的な温度刺激による単離細胞時計の駆動機構」を中心に研究し、その成果を学会等で発表した。加えて、単離細胞の密度を変化させると単一細胞レベルで細胞の概日リズムが安定することが明らかになり、この結果は「②細胞間における時間情報伝達機構」の解明に迫るものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、①外部刺激による単一細胞時計の調節機構を明らかにするために、「恒常的な温度変化による単離細胞時計の入力と維持機構」と「単一細胞レベルでの時間情報伝達物質の探索するための機器の開発」を中心に研究し、その成果を学会等で発表した。恒常的な温度変化による単離細胞時計への影響を調べるために、通常温度である22℃で生育したシロイヌナズナ植物からプロトプラストとして細胞を単離し、27、22、17、12℃の培養条件で概日リズムの発光挙動を観測した。重要な性質である温度補償性は、多くの生化学反応に比べて概日リズムの周期は温度の影響を受けにくい性質を指す。植物を含む生物は、一日の中での温度変化や季節による温度変化に曝されている。概日時計は時間の長さを測る尺度となるので、温度によって変化してしまうと正確な時間を生物は把握することができなくなるため、温度補償性は生物の環境適応と密接に関与している。葉と根由来の単離細胞において、各温度における細胞概日リズムの周期を解析したところ、どちらの細胞でも温度補償性を示すことが明らかになった。一方で、温度補償能は葉と根由来の単離細胞で違いが見られた。根由来の単離細胞は葉由来の単離細胞に比べて、温度によって細胞概日リズムの周期は影響を受けにくいことが明らかになり、器官特異的な環境適応に関与している可能性が示唆された。加えて、細胞時計に影響する時間情報伝達物質を探索するために、単離細胞の概日リズムに周期的な刺激を与える培地交換観測系を開発した。「概日時計システムの入力系(外部刺激)」、「葉と根の細胞時計の器官特異性」、「細胞間コミュニケーションによる細胞概日リズムの安定化」についての研究が大きく進んだため、本年度は当初の計画以上に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、これまでの研究と「②細胞間における時間情報伝達機構」についての研究によって、本研究の目的である「単一細胞を用いた細胞時計統合機構の解明」を目指す。 平成31年度の研究によって、単離細胞におけるリズム特性を明らかにすることができた。また、LED光源を用いた光刺激によって単離細胞の概日時計が調節されることを単一細胞レベルで明らかにすることができ、それらを学会発表等で報告した。加えて、シロイヌナズナの葉と根から単離した細胞は単離する前の器官の特徴を有しており、リズムの安定性や応答性に差が見られた。 令和2年度は、平成31年度の研究をもとに「①外部刺激による単一細胞時計の調節機構」についてより詳細に解析した。特に温度が与える細胞時計への影響が明らかにすることができた。温度への影響は葉と根由来の単離細胞で差異が見られ、器官特異的な細胞時計の性質も示された。これらの違いによって、太陽の光や温度など大きく異なる環境に曝されている植物の地上部と地下部において、環境に適した細胞時計を器官特異的に有する可能性が考えられた。また、細胞時計に影響する時間情報伝達物質を探索するために、単離細胞の概日リズムに周期的な刺激を与える培地交換観測系を開発した。 本年度は、令和2年度に開発した培地交換観測系と細胞添加による細胞間相互作用を用いることで、「細胞間における時間情報伝達機構」について重点的に研究を行う。加えて、植物個体内における細胞時計と単離細胞時計を比較することによって、植物個体がどのように細胞時計を利用し、環境変動に適応しているのかについての知見を得る。発光レポーターを用いた概日リズムの発現解析と同様にRNAシーケンスを用いて発現変動を解析することで、時間情報を伝達する分子的な機構の解明に迫る。
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